スティーヴン・キング「心霊電流」

キングは年に2冊のペースで長編を発表してるそうで、翻訳が追いつかない。本書も「ミスター・メルセデス」と「ファインダーズ・キーパーズ」の間に出したそうです。老いて益々旺ん、です。メアリー・シェリーとアーサー・マッケンにインスパイアされた、ということですが、冒頭の献辞に挙げられた作家は、クトゥルフ関連が多いよね。実際「ネクロノミコン」「無名祭祀書」と並ぶクトゥルフ神話の魔導書「妖蛆の秘密」がキーワードとして出てくるし。キングは以前短編「クラウチエンドの怪」でクトゥルフ物を書いてますけど、長編ではこれが初めてになるんじゃないかな。
本書の語り手であるジェイミー・モートンが6歳の時、初めてチャールズ・ジェイコブ師に会ったところから話は始まります。チャールズは、電気じかけで動く、キリストの水上歩行の奇跡を再現するジオラマとか作ってる、変わってるけど熱心な牧師でした。教区の住民からも支持され、特にチャールズの「奇跡」で救われたことがあるジェイミーの一家は、牧師と親交を深めました。しかし、悲劇が起こり、牧師は町を去ります。ジェイミーはその後ギターに夢中になり、恋人と幸せな青春時代を過ごします。そして、場面は溶暗します。人生の陥穽に転落したジェイミーはチャールズと再会し、再び「奇跡」に救われます。ただ、その奇跡には不気味な代償がありました。
モートンの転落と救済から話を始めて、回想シーンをはさんで発端を語り起こすというのがよくある構成だと思うんだけれど、キングは最初っから全部書くんですよね。途中の青春時代エピソードをダレずに読ませられるから、後半のクライマックスのための伏線もしっかり張れるし、ジワジワと恐怖を盛り上げていけるんだ。

ケムリクサ

他に誰もいない廃墟世界で、ヒトっぽい姉妹が赤虫と戦い、水を探して生き抜く話。
「ケムリクサ」は実体化したエネルギーみたいなものかと思ったけれど、操作して機能を制御したり、メモを書き込んだり、なんかマシンのようでもある。元になった自主制作アニメではタバコっぽい外見で、ケムリクサの名称も自然だったけど、葉脈が浮き上がる透明な葉っぱみたいになったので咄嗟に名前との関連がわからなかった。でも使い切ると煙になって消えるからケムリクサなんだな。
姉妹たちの本体もケムリクサらしい。で、ケムリクサを維持するためには水が必要なんだけれど、この世界では水が貴重でなかなか手に入らない。水を探すために「壁」を超えて危険な未知の領域を探索すべきか迷っていた。そこに、突然記憶喪失の青年、わかばが出現した。自分は人間だと主張するが、自分たちとは違い、「虫」でもない未知の対象に姉妹たちは強く警戒する。とはいえ結局それがきっかけとなって、リン、リツ、リナとわかばの一同は水探索の冒険に出かけることになる。
姉妹たちはそれぞれ機能が特化してるらしく、リンが見えるほどにはリナは遠くが見えない。わかばが感じる匂いとか、暑い寒いとかの感覚はリナたちにはわからないらしい。
視覚と体力のリンは戦闘向き。リツ姉はケムリクサの樹(?)を育ててその根を自在に操り、住居にしてる廃電車の車両の脚にしたり、周囲に伝送路を張って自身の聴覚と合わせて索敵したり、と支援要員。リナは分裂(分割?)してクローンみたいに増えたらしい。何でも食べて、食べたものを自由に再合成したりするみたい。他にもリクとかリョウとか姉妹がいたみたいなんだけれど……
赤虫は戦闘もしくは警備用のドローンが暴走してるような感じで、紅い霧の中に潜んでいる。どうもケムリクサに反応して攻撃してくるらしい。
7話まできたけれど、一つ新しいことがわかるとまた謎が増えるという感じで、うまい具合に焦らされてます。
なんだか随所でけもフレっぽさを感じるのは、やっぱたつき監督の作家性というか、書きたいことがすごく明確に決まってるんじゃないか。何を書いてもアタゴオルになる、ますむらひろしみたい。

シュガー・ラッシュ/シュガー・ラッシュ・オンライン

ゲームセンターが閉店時間を過ぎると、ゲーム内のキャラクターたちは仕事を終えてくつろぐ、といったトイ・ストーリー的世界。まあくるみ割り人形とか、伝統的な設定ではある。ゲームキャラのお話なんだが、パックマンだのソニックだの、ストリートファイターの各キャラだのと有名キャラが山ほど出てくる。レディプレーヤーワンみたいなもんだな。こういう、引用というかサンプリングしまくりって、やっぱり日本アニメの影響なんだろうか。カメオ出演で画面にちょろっと、お遊び的に出てくるのは昔からあったように思うけど、こういう堂々と出してくるのは最近の傾向なんじゃないかなあ。そうでもないのか。
主役がおじさんと少女で、ロマンチックな話にならないのも、ディズニーとしては珍しいような。一応脇役がカップルになるけれど。そういえばズートピアも、主役二人はバディでカップルじゃなかった。アナ雪のクリストフも扱いがぞんざいだったし、よく考えてみれば珍しくもないのか。
とにかく、やたらと小生意気なヴァネロペが可愛い映画。
シュガー・ラッシュ」は、悪役で同じゲームのキャラから仲間扱いされないことに不満があったラルフが自分の役割を見出して仲間から認められるとか、ターボの陰謀で無視されていたヴァネロペが名誉を回復するとか、社会と調和的な役割が健全に機能することで社会が秩序を回復するという思想だったけど、続編の「オンライン」の方はその役割を否定するのね。
シュガー・ラッシュ」のラストではヴァネロペが、プリンセスとしてこの国を盛り上げていくぞ、みたいなノリだったのが、「オンライン」でネット上のワイルドなレースゲームを知ると、もう昔のヌルいゲームじゃ満足できないってなっちゃう。ここで、元のシュガーラッシュの世界を捨てることへの葛藤が生まれるわけだけれど、それが「元の関係に固執する」ラルフとの葛藤として表現されてるので、ラルフが割りを食ったというか、話の展開上ラルフが余計意固地にならざるを得なかったような感じはあった。
ポップアップで呼び込みしたり、投稿動画でいいね稼ぎしたり、ネット絡みの小ネタが楽しい。
SWのストームトルーパーまで含めて、ディズニーキャラ総出演なんだけど、ディズニープリンセスのミュージカル体質にヴァネロペがツッコミ入れるとか、自虐ギャグが炸裂してた。
シンデレラ症候群」なんてコトバもあったっけ。ディズニープリンセスというと、ジェンダーバイアスの象徴みたいに言われかねないところがあったりするんだけど、それを意識して、主体性がないように見られてんのがムカつくとか言わせてるし。むしろシンデレラがガラスの靴をためらいなく割って切っ先を突きつけるとか、チンピラまがい。白雪姫はなんかちょっとアブナイし。キャラ崩れないのはアナくらい?お姫様と言いつつ、庶民的なキャラだから。ラプンツェルも元からあんな感じか。用意された役割からの解放、とかも言えるんだけれど、見ててもなんかポリコレなのかパロディなのかわかんないよね。
herecy8.hatenablog.com

コナリミサト「凪のお暇」

凪のお暇(5) (A.L.C.DX)

凪のお暇(5) (A.L.C.DX)

OLの大島凪は、ひたすら周囲に合わせて生きてきた。愛想笑いを貼り付かせて自分を殺してきたけれど、無理が祟ってついに限界がきてしまう。職場で過呼吸を起こして倒れた凪は会社を辞め、郊外の安アパートに引っ越して服も家具も捨て、彼氏も捨てて人生をリセットしようとする。というところから始まる、ユルフワな絵柄のコメディ。無難な人生を選んできた反動で、いきなり無茶なことを思い立って始めてしまうというパターンが原動力になってストーリーが転がっていく。ただ基本は少女マンガなので、三角関係がメインプロット。
凪の危なっかしい試行錯誤の奮戦記を楽しむマンガだけど、女同士の生々しいマウント合戦があったり、豆知識みたいな節約テクの紹介が色々入ったり、女性読者の共感を呼ぶ感じなんだろうなあ。
絵柄は少しクセがある。線の少ない顔で、瞳が三本縦線。とにかく丸い瞳を描かない。逃げ恥の海野つなみの描くガラス玉みたいな瞳も、なんだか気味悪かったけれど、コナリミサトの瞳もかなり印象が強い。なんだかんだ言っても少女マンガの絵では髪と目にフェティッシュが向かうので、それを拒絶しているような描線が、どこかぞんざいな印象を与えているように思う。

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 2 (A.L.C. DX)

凪のお暇 2 (A.L.C. DX)

凪のお暇 3 (A.L.C. DX)

凪のお暇 3 (A.L.C. DX)

凪のお暇 4 (A.L.C. DX)

凪のお暇 4 (A.L.C. DX)

泉仁優一「ヤオチの乱」

ヤオチノ乱(1) (アフタヌーンKC)

ヤオチノ乱(1) (アフタヌーンKC)

知略と諜報に生きる現代の忍び、八百蜘一族の中から時代を託すにふさわしい人材を選ぶ選抜試験の話。志願者は40人、互いに見知らぬもの同士。遅効性の毒を打たれた上で解毒剤を携帯し、二人一組のペアを組んで他のペアの解毒剤を奪い合う。期間は1ヶ月、その間は池袋駅を中心とした2キロ圏内を出てはならない。
主人公キリネは諜報と謀略に長けた少女で、普通の日用品や街中で容易に入手できるようなものを使ってワナを仕掛けたり敵の奇襲を迎え撃つ。そんな彼女がペアを組むことになった少年は、およそ忍びとは縁遠い、素人丸出しな足手まといだった。しかし、彼には自分でも知らない、ある秘密が……
ということで、都会の雑踏の中で人知れず繰り広げられるマンハントMasterキートンとか好きならば絶対オススメ。

草野原々「最後にして最初のアイドル」

意識はアイドルによって個人へとダウンロードされる。

デビュー作にして星雲賞受賞もむべなるかな。アクセルベタ踏みでコーナーに突っ込んでくようなバカSF✖️3。表題作は「ラブライブ!」の同人小説をリライトしてハヤカワSFコンテストに応募したもので、最終選考に残ってるのは何かの間違いだろうとか文芸作品として最低レベルとか散々な言われようでも特別賞を受賞、さらには山田正紀「神狩り」以来となるデビュー作にして星雲賞受賞の快挙を成し遂げた。まあ全編悪い冗談みたいなものだけど、次から次へと飛び出すハードSF的展開に引きずり回される思考のドライブ感はまさしくセンスオブワンダーという奴だろう。ちなみに表題作の他、「エヴォリューションがーるず」「暗黒声優」の3編が収録されている。
「最後にして最初のアイドル」は、最初アイドル小説っぽく始まり、どこがSFなんだと不安になるかもしれないが心配ない。すぐにぐちょぐちょのねちょねちょになって、人類が滅亡の危機に晒されたりクラゲが空飛んだりする。「エヴォリューションがーるず」は「「まどマギ」リスペクト。ガチャを回して進化するというのは、割と思いつきやすいネタだけど、料理の仕方がぶっ飛んでる。「暗黒声優」は光の媒体としてエーテルが存在する宇宙の話。声優は、発声管によってエーテルを操作する能力者である。地球が崩壊したり、銀河系中心へのチェイスがあったりと、ワイドスクリーンバロック

街の本屋さん

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大森駅西口
昔懐かしい街の本屋さん。雑誌と実用書が多いのは普通。小さな店だけどマンガとベストセラーに偏らず、幅広い品揃えで、こういう店は都内で少なくなった。文芸は国内だけで海外文学とかはない。文庫は司馬遼太郎池波正太郎藤沢周平と時代小説、歴史小説が目立つ。岩波新書岩波文庫でそれぞれ棚1本づつ埋めてるのは貴重。その他も新書は多い。新潮選書も結構並べてた。コミックスは店の奥の方だけど、結構品揃えが良い。全巻揃いで置いてあるコミックスが多い。フランス書院とかもかなり並んでる。ラノベは皆無。そういえば創元とかハヤカワもなかった気がする。