打海文三「愚者と愚者」

愚者と愚者 (上) 野蛮な飢えた神々の叛乱

愚者と愚者 (上) 野蛮な飢えた神々の叛乱

愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ

愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ

読んだ。これはすごい。読み出すと止まらないんだが、上下巻700p近くあって、中身もみっしり詰まってるんで読んでも読んでも終わらない。久々の快感です。
内乱で分裂状態になった近未来の日本を舞台にした戦争小説で、レバノン化というかイラク化というか。軍閥というか、国家が消滅してみんな自給自足なんでマフィア化して縄張り争いやってるんだけれど、それぞれが掲げる旗印が民族と性なんですね。排外主義とか男根主義とかの差別思想が求心力をもって、それに対抗する性的マイノリティの武装抵抗勢力が雨後のタケノコのように湧き出してくる。金が目当てのマフィアは内部抗争で分裂するし、一方はマイノリティだけにそれぞれ独立した多様な少数勢力でバラバラだし、そこらじゅうに武器は溢れてるし、ここまでハードでハチャメチャな世界を造り上げたのはとにかくスゴイ。その世界を描き出すのに、とにかく細かい具体的な描写を積み上げて積み上げてます。戦闘時の個々の部隊配備から戦闘描写、さらに武器弾薬の補給や輸送、医療班の確保などの兵站、新兵の補充に訓練、各勢力同士の政治的駆け引き、それに主要キャラのドラマまで書き込んでるから情報量はやたら多い。
でも、なんでそもそもそんな内乱状態になったのかとかは一切説明ない。首都圏の攻防が中心で都内のやたら細かい地名が大量に出てくるけど、首都圏外だと、北海道・東北の描写は多少あるけど西は名古屋・岐阜まで、以西についてはとにかく沖縄までどこもバラバラだというだけで具体的な説明はない。海外についてはアメリカはいろいろ絡んでくるけど、他は中韓ロぜんぜん出てこない。投げっぱなしアニメとかは慣れてるんで、ここまで細かく具体的な描写で描いてるんなら区切りの外は一切描写しないというのも潔いかとも思ったんですけど、「裸者と裸者」ってこの小説の時間的に前に当たる小説があるんですね。う〜ん、そっち先に読むべきだったか?
この小説は上巻と下巻で主人公が変わってて、上巻は男の子の戦争、下巻は女の子の戦争。この小説では、ポジティブな意味で使うときは「男の子」「女の子」なんですね。「男」「女」という単語が出てくるときはあんまりいい意味には使われない。個々人のセクシャルなファンタジーを互いに認め合うのが寛容の根本になっているという世界観を示してるんだと思います。で、それを体現するのが後半の主人公、パンプキン・ガールズの椿子。「命とメシとセックスの自由」こそが人間の尊厳と言い切ります。
「我々は女の子の海から出撃して、女の子の海へ逃げ込む。」毛沢東を意識してるんでしょうけど、女の子だけのゲリラ部隊であるパンプキン・ガールズはその戦術を徹底します。市街戦、テロ、武器密売、ワイロに売春、ドラッグを使って軍内部の規律を腐敗させていくなど、圧倒的な兵力を持つ軍隊を相手に手段を選ばず戦い抜きます。これがとにかくカッコいい。
最後はファナティックな差別主義的ヒロイズムを、あらゆる民族・性を横断する同盟軍がのみこんで一瞬の均衡状態を作り出したとこで終わるんで、大団円とはいかないです。なんかいろいろ言い足りないけど、まあ思いついた順に勢いで上げときます。
三千花とかアイコとかパンプキン・ガールズのメンバーは萌えキャラ多いし、アニメにも出来るなあ。