森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

「オモチロイ」とカタカナで書くのは荒俣宏だったか、水木しげる描くアラマタだったか。文庫版の解説が羽海野チカのイラストは、そこに描かれたヒロインが一度目にしたらそれ以外のイメージが浮かばなくなるほどハマってるので、自分でイメージしながら読みたい人は読む前に間違って後ろのページを開いたりしないことをおすすめしたい。
「キュートでポップな恋愛ファンタジー」と紹介されています。不思議な小説で、たしかにそう形容するのが一番合ってるのでしょう。京都を舞台に、夜に細い路地をゆっくり進む満艦飾の三階建て電車とか、野外の古本市で並べられた本棚と本棚の間が折れ曲がる狭い通路になって不思議な部屋へと導かれて行くところとか妖しくレトロな雰囲気がポップです。小道具だけでなく雰囲気を壊さずもり立てる単語を選び、かつ読みやすい文章がまた魅力となっています。内容はボーイ・ミーツ・ガールの恋愛ファンタジーで、好奇心の塊となって世界を楽しむヒロインの回りを不思議な登場人物たちが取り巻き、彼女に憧れる主人公もまたその一人となって彼女を追いかけます。夜の先斗町で不思議な登場人物たちと出会う最初の章から、不思議な人たちの間の不思議な縁が風邪の感染ネットワークとなる最終章に至る構成は青春小説とファンタジーを融合させた巧い作りだと思いました。
最終章の章題「魔風邪恋風邪」は「まかぜ・こいかぜ」でしょうか「まふう・じゃれんかぜ」でしょうか。ダブルミーニングとして楽しめますね。