篠田節子「夏の災厄」

夏の災厄
お勧め度:AA-

夏の災厄 (文春文庫)

夏の災厄 (文春文庫)

地道なパニック小説。類型に逃げない細かい描写を堅実に積み上げていく作者のスタイルがうまくはまって、派手な見せ場はない分迫真性あふれるバイオハザードものになっている。舞台がずっと一地方都市に留まってコミュニティの崩壊を描いていくあたり篠田版「呪われた町」という感じもする。キャラクターに善玉悪玉の色づけがなく、クライマックスの盛り上がりや解決も曖昧な分リアルではあるけれど、カタルシスは得にくい。目に見えないウィルスの脅威を、蚊や闇に光る貝の描写を使って訴えている手法が効果的。今読むと最近の鳥インフルエンザを巡る騒動がそこかしこでだぶってきて怖さも倍増。