「ねじまき少女」 パオロ・バチガルピ

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

石油資源枯渇によるエネルギー危機、温暖化による海面上昇、そして遺伝子工学の失敗なのかなんらかのテロの結果なのかはわからないけれど新種の疫病と作物の病虫害による飢饉、といった災厄に必死の抵抗をみせている未来のタイが舞台で、病虫害に耐性をもつ植物の遺伝子特許を握る多国籍企業やら、利権目当ての政治家、暴走する防疫部隊など、さまざまな勢力が互いに争います。タイトルの「ねじまき少女」は遺伝子工学によって設計された人間で、日本の製品(!)ということになってます。現代とはいろいろな面で状況がかなり違うけれど背景などの説明がほとんどないので、最初はなにがなにやらわかりません。暗殺、クーデター、内乱と収拾のつかないまま混乱が広がっていくと、もはや気にならなくなりますけれど。クシャナナウシカも出てこない「ナウシカ」、と言ったらその雰囲気はなんとなくわかるでしょうか。
人間を突き放した視点から、人間の文明社会の衰退を描いているのは、SFならでは。