近藤聡乃「はこにわ虫」

はこにわ虫

はこにわ虫

爪を切った瞬間にとりとめのない妄想のようなイメージが広がり、次の瞬間には忘れてしまう。そんなイメージの奔流をコマ割りした短編集
丸尾末広とか花輪和一を思わせる、ゆがんだ偏執的な絵柄なんだけど、薄気味悪さとか病的なイメージは無い。少女の意地悪そうな目つきや歪めた口元と、みっしりとまとわりつくようなデザイン処理された背景は、思春期のもっさりと重い自意識を示しているのかもしれない。それら一切が洗い流されたような、伸びやかな一本の線で描かれた、表紙の少女のイラストが、たまらなく気持ちが良い。切れ長の少しつり上がった目、ベタではなく丁寧な描線で描かれたおかっぱ頭の艶やかな黒髪、太すぎず細すぎない首筋がなだらかに肩から腕へとつながる。単純な線で描かれたワンピースの裾は風をはらみ、大きな布となってたなびいている。柔らかな線で描かれた腕や足が、確かな肉体の質量を感じさせる。魅力的な一本の線が引ける、というのは何より価値がある。