吉田エン「世界の終わりの壁際で」

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

主人公片桐哲也は、「壁」の外側のサイバーパンクっぽいスラム街で、「壁」の内側に入ることを夢見つつ、VR格闘ゲームで賞金を稼いでいた。しかし、金にあかせて最新式のデヴァイスを使い、身体改造までしてくる相手には歯が立たない。その状況を変えたのが、少女雪子と謎のAI「コーボ」との出会いだった。
タイトル通り、「世界の終わり」だし「壁際」の話です。色々絵になるSFガジェットが散りばめられてて、派手なアクションもあるし、舞台が次々切り替わって展開も早いし、最後まで楽しく読めた。スーパーAIがどんどん学習を重ねて人間らしくなってくと、だんだんバカっぽくなってくのが面白い。
第4回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。文庫の最後に選評がついてる。確かに構成も描写も的確で小説としての完成度は高いけど、ガジェットは既存のイメージに乗っかった使い回しで、SFとしての新しい驚きはないかな。ニュートラルなAIを制御しようとすると自己保存の意識を刺激して敵対的な反応を引き出してしまうけれど、信頼して対等な関係を築くことで協調できる、というのはホーガンの「未来の二つの顔」のバリエーションだよね。人間同士が不信と猜疑心で対立し合う中で、片桐が「コーボ」を信頼すると決断するところの描写は良い。ただ片桐の、自分の都合で平然と裏切る自分勝手さに違和感を覚えたところはある。