テッド・チャン「あなたの人生の物語」

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

ヒューゴー賞ネビュラ賞などSFの名だたる賞を総ざらいする寡作家テッド・チャン短編集
キモになるアイデアをいかに巧みに表現するか、というところが絶妙なんだけれど、詳しく書けばネタバレになるし、そりゃ別にネタバレしたところで面白さが些かも損なわれたりはしないけれど、鮮やかな初読の印象を奪う紹介というのもマズかろう。ということで、妙に抽象的でよくわからない感想文が増えるのだった。
認識が変容すると現実も変容する。認識とは言葉を持ってする以上使用する言語が認識の型となる。表題作「あなたの人生の物語」は、ためにエイリアンの異質な言語を研究する言語学者の意識が次第に変容していく話。核となったアイデアと、物語そのものと、どう語るかというスタイルと、全てが理想的に絡み合って一体化した、奇跡のような小説。他にも古代世界を舞台にした「バビロンの塔」、錬金術スチームパンクの「七十二文字」、思弁的な「理解」「ゼロで割る」、とバラエティ豊か。最後の「顔の美醜ードキュメンタリー」は、脳神経を操作して顔の美醜を認識できなくすることが可能になったら、何が起こるか、という思考実験をドキュメンタリー風に描いたもの。最後の一つ前に載せられた「地獄とは神の不在」は、作者コメントでは「宗教に含むところはない」と言ってるけれど、非合理的であるということはこんなに非合理的なのだという小説で、なんだかキツイ皮肉に思えるんだけれど、一神教ってこういうもんなの。