三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」

北鎌倉にあるビブリア古書堂を舞台に、店主の栞子さんと店員の大輔のコンビが本にまつわる謎を解く、ビブリオミステリ。シリーズ本編の完結編ということで、ネタもシェークスピアの幻の稀覯本とスケールアップしてます。10年越しの母娘因縁の元であり、シリーズ全体を支える謎の始末にふさわしい仕掛けで、クライマックスの対決も大興奮の盛り上がりです。
謎の設定と解決に無理がなく、古書にまつわるウンチクが個々のエピソードに自然に絡んでいてまさにビブリオミステリの名に恥じない面白さ。シェークスピアからの引用を散りばめて、それが話の展開にしっかりマッチしてるのは、そもそもシェークスピアが人生の機微について語り尽くしてるから必要なセリフをいくらでも探せちゃうっていうのはあるかもしれないけれども。

誰が仕向けたかなんて無意味だと言っているだけ。その時々でこれこそ自分と言いきれるのが本当の自分。単に感情の強度があるだけで、人間はその強度に応じて決断すればいい。

>小説中盤で、栞子の母親、篠川智恵子はこう語る。古書のためには手段を選ばない、平気で家族も捨てる最低の人間、と娘の栞子からは詰られてますが、決してそれだけの人ではない。シリーズ通しての敵役ではありますが、強欲とか独善とかの悪徳の形容では語れない底の知れなさが、人物造形の陰影となり、小説の強度を作っています。
主役はもちろん、脇役からゲストキャラまで、登場人物たちがちゃんと人生を背負って描かれているのも、小説の奥行きを出しています。犯人の動機や謎の仕掛けに不自然さがないのも、人物造形の確かさによるものです。
シリーズの今後の新作は番外編やスピンオフになるようですが、栞子大輔のコンビと智恵子ママのお話ももっと読みたくなります。なんか、こっから三人の冒険が始まるんだ、という気にさせる終わり方ですし。

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