森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」

有頂天家族 二代目の帰朝 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 二代目の帰朝 (幻冬舎文庫)

アニメの放送も始まった。狸、天狗、人間が三つ巴となって京都で阿呆な騒動を巻き起こす毛深いファンタジーの二作目。「おもしろきことは良きことなり」の精神で妄想を詰め込めるだけ詰め込んだ、波乱万丈の阿呆小説
主人公下鴨矢三郎は狸である。その父下鴨総一郎は洛中の狸を束ねる「偽右衛門」として敬われていたが、狸鍋にされてしまった。総一郎を食ったのは金曜倶楽部である。金曜倶楽部は大正時代から続く秘密結社で、忘年会に狸鍋を食う。その金曜倶楽部の一角を占める弁天は妙齢の美人であり、矢三郎の初恋の相手でもあったが、天狗である。ただの女子高生出会った弁天を天狗にしたのが如意ヶ嶽薬師坊、大文字焼で有名な東山如意ヶ嶽に座す大天狗であったが、今では引退して出町商店街のアパートに住んでいる。狭いアパートの部屋で赤玉ポートワインを呑んでいるので赤玉先生と呼ばれている。また、総一郎亡き後、狸界の頂点に立ったのは偽電気ブランの利権を一手に握る夷川早雲であった。下鴨家惣領の矢一郎が夷川早雲と偽右衛門の座を賭けて争った大騒動の顛末は一作目「有頂天家族」となっている。
本作はかつて如意ヶ嶽薬師坊の弟子であり、師匠との対決に敗れて英国に逃げ出していた薬師坊二代目が京都に帰ってきたところから話は始まる。洋行とか帰朝とか、イキなワーディングである。
かつては天狗力に満ち溢れ、弟子を南座の大屋根から蹴落とした「赤玉先生」薬師坊も、今では南座の大屋根から滑り落ちないようにしがみつくのがやっとの有様。しかし天が下我より偉い者なしの唯我独尊な天狗的矜持は些かなりとも衰えない。斯くして天狗界における騒動の火種は蒔かれたのである。一方狸愛に目覚めて金曜倶楽部を除名された淀川教授は、矢三郎とともに木曜倶楽部を立ち上げ、反金曜倶楽部のゲリラ活動を展開していた。
そこに、地獄から抜け出してきた幻術師天満屋、捲土重来を期する夷川早雲、世界周遊から帰国した弁天が加わり、ただでさえ古の都を騒がせることとなるのだが、そこで敢えて波風を立て油を注ぐのが下鴨矢三郎である。これ総て阿呆の血のしからしむるところである。
有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)