黒田龍之介「世界のことばアイウエオ」

アイスランド語から始まってロシア語まで、世界の100言語について見開き1ページで綴ったエッセイ集。歴史や発音の簡単な解説だったりちょっとしたエピソードだったり、あくまで軽い読み物。著者は言語マニアで、読めない言葉の本でもとりあえず買って、眺めてるのが好きな人で、読者のほとんどが見たこともない文字で綴られる馴染みのない言語についても楽しそうに語っているのが読んでて楽しい。図版は無いので文字のサンプルとか見れないのは惜しい。
言語学の専門的な概念などについてはほとんど触れていないし、たまに出てくる専門用語についてもわかりやすい説明がついてるので気にならないのだけれど、ただ唯一「能格」はよくわからない。

自動詞文の主語と他動詞文の目的語が同じ形になると、その他動詞文の主語が能格という独特な形を取るという現象である。

と言われてもサッパリわからない。まあ複雑な文法構造の言語もあるんだなあと読み飛ばしてもいいのだが、文庫版解説には能格構造は「辺境言語の特徴」とも書かれており、それぞれ系譜不明な孤立言語として有名なバスク語コーカサス諸語、ブルシャスキー語と文法構造や語彙が全く異なる三グループのみが全ての時制で能格構造を持つという共通項を持ってるとか書かれると、俄然興味が湧いてくる。
wikipediaの「能格言語」を読んでもいまいちピンとこなかったけれど、ウロウロと検索していたらこんな記事があった。
www.asahi.com
地震列島 M9誘発」と言われると、「地震列島がM9を誘発した」と解して、??となる。「地震列島をM9誘発」でもわかりづらい。「地震列島 M9が誘発」ならすぐわかる。ここでは他動詞文で、主格が区別されている。
日本語だと、自動詞文「ドアが開いた」、他動詞文「君がドアを開けた」と、どちらでも「が」をつけて主格を示す。で、格助詞を省略して「ドア開いた」とも言えるだろう。その時「君がドア開けた」と「君ドアを開けた」では前者が自然じゃない?という感じ。つまりここで、自動詞文の主格「(ドア)開いた」と他動詞文の対格「君が(ドア)開けた」が、どちらも格助詞省略という「同じ形」になっている。ということで、能格構造の雰囲気をわずかながらも味わえるということだって。