原作/城平京 漫画/片瀬茶柴 「虚構推理」

妖怪ミステリ、とでもいうのだろうか。超自然的要素を入れることで、逆に可能となったロジックの仕掛けが堪能できる。原作は本格ミステリ大賞受賞作。
主人公は探偵役の岩永琴子。17歳の可憐にして苛烈な令嬢。小学生のころ、モノノ怪に攫われて右目と左足を失い、知恵の神となった。賢いとは言い難いモノノ怪たちの相談役となり、仲間内や人間との揉め事の仲裁をする。人とあやかしとの秩序、覆してはならないこの世の道理を守るのが知恵の神であり調停者である琴子の役目だ。彼女が求めるのは真実でも正義でもない。混乱した秩序が再構築されるための説明、ストーリーを提供する。それが虚構であっても構わない、だから「虚構推理」。京極堂の憑き物落としに通じるものがある。
そんな彼女が一目惚れして、強引に恋人になった大学生桜川九郎と共に挑むのは、ネットの噂が具現化した怪異「鋼人七瀬」、事故死した巨乳アイドルの亡霊が鉄骨材を振り回すという無茶なモンスター。妄想が生んだ想像力の怪物を倒すには、「鋼人七瀬」を生んだ物語を解体し、その存在を否定する別の物語で上書きしてやる必要がある。それはつまり、「鋼人七瀬」にまつわる様々な怪異の「真相」を構築して、ネット上の匿名の閲覧者たちを説得するということ。真実はあくまで存在する「鋼人七瀬」が怪異を引き起こしたのだけれど、あくまで人間の引き起こした犯罪として説明する、すなわち虚構推理。
本格ミステリには、探偵の示した推理が真の解決なのか、全ての手がかりが適切に開示されたのか、作中の探偵自身には検証のしようがない、という限界がある。「後期クイーン問題」と言うそうだが。本作ではそこを回避して、説得される快感を純化させたと言える。
原作を読んでないので、コミカライズにあたってどのくらいアレンジしたのか、してないのか、わからないわけだけれど、岩永琴子のキャラが強烈で、桜川九郎との掛け合いがいちいち面白い。コンビで事件解決に当たるわけだけれど、九郎はワトスン役ではないんだな。最初の「鋼人七瀬」編では九郎の元カノである紗季がワトスン役だったけれど、話ごとに変わり、特にはっきりしたワトスン役のない話もある。琴子の推理が真実を暴くためではなく、誰かを説得するために繰り出されるものだから、その説得される相手がワトスン役に比定されることが多い。
コミックス6巻までが「鋼人七瀬」編。その後はマンガ化を前提に書き下ろされた短編を原作として、現在10巻まで刊行されています。
虚構推理(2) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(3) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(4) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(5) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(6) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(7) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(8) (月刊少年マガジンコミックス)
虚構推理(9) (月刊少年マガジンコミックス)