ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形

期間限定上映ということで、予定を繰り合わせて見に行ったんですがすでにパンフは売り切れていました。なんてこと。なお記事は「ネタバレあり」です、為念。
劇場版です、シネスコです。横長のシネスコ比率画面で見るとあらためて、画面構成カッコいいなあと思いました。例えばヴァイオレットとイザベラが、一方の壁が鏡になってるホールでダンスの練習をしていたシーン、二人が画面の右端に立ち、画面の左端に鏡に映った二人が立っているところ。例えば、ヴァイオレットがテイラーを手伝って、エイミーに手紙を書くシーン、やはり二人が画面の右端に寄って、薄暗い他に誰もいない部屋の空間が大きく映し出されるシーン。レイアウトっていうんでしょうか。人物と背景の対比とか、構図とか、光の加減とか。それを支えてるのが京アニ作画な訳ですけれども。テレビシリーズから作画の異様なクォリティが話題でしたけれど、なんか画面が自然というか、この完璧なシーンを支えるために奉仕してるというか。演出から何から合わせて、非常に高いレベルで均衡してるという映画でした。石造りの建物の巨大な空間と、寮の狭い廊下や階段、そして屋外の木立の光の対比。木立の中を歩いていくシーンの瑞々しい鮮やかさとか、硬く冷たい義手の柔らかな暖かさとか。圧巻は舞踏会シーンでしょうか。「美女と野獣」を思い出しました。ディズニーがゴリゴリのCGでグルングルンカメラ回しまくってましたけど。ヴァイオレットの姫騎士ぶりもさることながら、大ホールでのモブも合わせた豪華な舞踏会、贅沢なシーンでした。そして最も美しいシーンはラスト近く、草むらの後ろで木漏れ日に照らされていたテイラーの横顔でしょう。瞳のアップと足元のアップが多用されるのは、なんか京アニっぽい絵面だねえ。
お話は前半は名門貴族の娘イザベラの家庭教師となったヴァイオレットが彼女の閉ざされた心に寄り添い、イザベラが心を開いていく話。後半はそのイザベラの生き別れた妹テイラーと、ヴァイオレットの同僚で配達人のベネディクトの話。そして二つの話をつなぐ2通の手紙。
テイラーは思いっきり元気な幼女で、健気だし可愛いし、で後半の要です。イザベラは名門貴族の娘という枷に捕らわれて自棄的になってますが、戦後の混乱を一人で生き抜いてきた逞しさがありますし、元来明るく頭の良い女性のようです。もっとイザベラの話を見てみたい、イザベラ主人公で1本見たい、と思わせる魅力があります。
しかし、全寮制の女子学院でも、校内に侍女を連れて来る貴族にとって、侍女と同室で寝起きするというのはあり得ない感覚なのではないんだろうか。デレてからのイザベラならともかく。授業のシーンではヴァイオレットの他にも教室の後ろで控えてる女性がいたので、他にも侍女を連れてきた貴族の娘はいたと思われるし、そのための部屋も用意しているものなのではないだろうか。まあ、そもそも王家に連なる名門貴族が子女の教育に他国の民間会社のドールを雇うか、という気もするけれど、シャペロンじゃなくてガヴァネスなら、それもアリかな。でもデビュタントと言いながらイザベラお嬢さん、ずっとヴァイオレットと踊ってたよね。婿候補になるような人も来ていなそうで、完全に校内ダンスパーティっぽかったけれど、それでもやはりデビュタントなんだろうか。とかまあ、突っ込みたいところが無いではなかったけれど、ヨーロッパの文芸映画みたいな綺麗な染み入るような佳品でした。
入場者特典は「アン・マグノリアと一九歳の誕生日」、毎年誕生日に亡くなった母親からの手紙が届く女の子の話ですね。原作小説未読でずっと来てて、初めて読んだんですけれど綺麗な小説ですね。主観描写が流麗な文体で綴られていて、短いながらしっかり読み応えのある短編小説でした。ビジュアルイメージが強いというよりは、文章の紡ぎ出すイメージが強い感じ。原作もこういう小説なのか。これをアニメにしようっていうのは、えらくチャレンジングだったんじゃないだろうか。