「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

2016年公開の「この世界の片隅に」では削られた原作のエピソードが追加されたことで、物語の切り口を変えた別の映画となっています。戦時下の日常系コメディという部分は変わりませんが、遊郭のリンさんとの絡みが前面に出てきたことで、後半は周作の妻としてのすずさんの側面が大きく語られることになります。戦時下の淡々とした日常に空襲とか原爆とかが襲いかかってきて、破壊していくわけですけれど、夫の「昔の女」の影であるとか、強烈な台風であるとか、日常を脅かす非日常というのは戦争ばかりではないわけです。世界はいろんな出来事からできていて、その中で生きているすずさんもいろんな面を持っています。そうした多層的な厚みを得て、戦争を時代背景としたすずの一代記であり、北条家の人々を描いた大河ドラマの一部であり、呉の人々の物語の一部でもあるというような、今ここにいる自分に繋がってくる回路が増えたように思います。
戦争中の日常パートは、戦時下あるあるネタがいろいろ入ってるらしいけど、観客のほとんどがわからない、とか聞いた。でも、なんか前作の公開時に、何人かで映画館に見にきてえらい受けてたおばあちゃん達がいたとか。それを聞いた片渕監督が、「間に合った」と言って、涙流して喜んだとか。何より、実際に戦時下の生活を経験した、その世代の人たちにこそ、届けたかったのでしょうね。
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