スチュアート・タートン「イヴリン嬢は七回殺される」

イヴリン嬢は七回殺される

イヴリン嬢は七回殺される

イムループとミステリを組み合わせた、型破りな本格ミステリ。緻密な仕掛けに、読んでてアタマがついてかない。「虚構推理」とか「その可能性はすでに考えた」とか、1周回って知的遊戯に回帰したミステリがいろいろ出てるけど、これもその一つ。古典的な館モノを新趣向で蘇らせた。
主人公は、森の中に立つブラックヒース館に招かれた客人の一人として目覚める。一人の女性の名前を除き、一切の記憶がなくなっている。気がついたところは森の中で、そこで女性が男に襲われているのを目撃する。助けようとするが、すぐに見失ってしまう。その後森の中を彷徨い歩いてようやくブラックヒース館にたどり着く。助けを求め、襲われた女性を探そうとする。調べ回り、自分の失われた記憶を取り戻そうとしていると、何者かの脅迫にあい気絶してしまう。そして気がつくと、また別の、館の関係者の一人となって同じ日の朝に目覚める。その夜の仮面舞踏会で、イヴリン・ハードカースルが殺される。主人公は、それぞれ別人として、同じ日を8回繰り返す。その最後の8回目までに、イヴリンを殺した真犯人を見つけ羅れなければ、全てがリセットされて、また一人目として目覚めることになる。
このゲームのルールを説明するのは、ペストマスクをつけた謎の人物。主人公を狙う謎の敵、敵か味方か不明な協力者、秘密を抱えた招待客たち、そして16年前に起きた殺人事件の謎、と不穏な仕掛けが盛り沢山。最後には、主人公が巻き込まれた奇妙なゲームそのものを含めて、全て説明されるので、安心して読めます。殺人事件が起きるのが夜で、その日の朝からスタートするのだから、最初主人公は殺人事件を回避しようとするんだけれど、殺人が起きないと犯人が分からないとか本末転倒の理屈が出てくるあたり、探偵と事件の関わり方の批評でもある。
事件関係者のうち八人が「話者」で「探偵」になる。同じ日を何度も繰り返すので、当然後のターンになるほど情報量が増える。だから、前のターンの自分を誘導するための手がかりを残したり、前のターンでの失敗を防ごうとしたりすることもできる。ただし、前のターンの行動が変化すると、その後の全てが変化してしまうので、失敗がわかっていながら防げないとか、どんどん複雑になっていく。自分の行動がどんどん重なり関連しあっていく中で、これまでの自分の行動を踏まえつつ、妨害を潜り抜け、独立して進行する陰謀や騙し合いを解して、殺人者の真相に迫らなければならない、作者も大変だったみたいだけど、読む方も大変だ、