藤のよう「せんせいのお人形」

女子校教師であるアラサーの独身男性が、ネグレクトの被害者で精神も生活も荒廃した少女を育て直す話。親戚の間でたらい回しにされ、押し付けられてきた少女スミカに対し、最初は不干渉で最低限の生活支援だけするつもりだった昭明先生は、見かねて教育し直すことを宣言する。
戸惑いながらもスミカは次第に社会生活に慣れていく。だが、そこに親戚筋からの新たな難題が降りかかる。スミカがそもそもたらい回しにされていた親戚というのは、日本有数の財閥に連なる分家であった。で、スミカは本家当主の隠し子だという証拠を手にして、スミカを手中にしようとする男が登場する。先生はスミカを守るため、5ヶ月でスミカを名門女学院の編入試験に合格させる、という賭けに乗らざるを得なくなる。
作者もピグマリオにインスパイアされたとコメントしており、基本はマイフェアレディです。ただ料理の仕方はかなり違います。スミカの知的好奇心の芽生えと、それが一気に開花していく件の描写は感動的です。スミカの世界が次第に広がっていき、自身を取り戻していく中で、自分の中にある影や暗い衝動とも向き合っていく、その過程が重たくなり過ぎない描写で丹念に描かれています。もともとWEB発表の全編フルカラー作品で、マンガアプリのCOMICOでは全120話完結してますが、書籍版は3巻41話まで出てます。アプリ版は縦読みで、基本的にコマを縦につなげてるから、書籍版ではページごとの画面構成に変えてます。かなり手間がかかってる気がするんで、書籍版を待とうとすると時間かかりそう。アプリ版の方が本来の形かなあという気もするし、アプリ版推奨です。無料で読もうとすると日数かかるけど、基本1話51円なんで多少は割安かな。まあ結局両方買ったけど。
面白いのは、昭明はもともと詩人志望で、流れ星とか見ても言い伝えとか先人の想像力とかに思いを馳せるんですが、スミカは流れ星が地球に向かって飛んできてるように見えるけど、地球が彗星の軌道上に残ってるチリの中を横切っていくわけだからむしろ地球の方から向かって行ってるんだ、みたいなことを面白がる、と興味のベクトルが結構違ってたりする、そういう知性のバラエティみたいなエピソードが入ってたりすることですね。
たらい回しにされてる子を引き取る、から始まる話といえば宇仁田ゆみうさぎドロップ」もそうでしたね、独身男性が幼女を引き取る話でしたが。独身女性と少女の組み合わせだとヤマシタトモコ「違国日記」があるし、吉田秋生「海街ダイアリー」も話の始まりは三姉妹が少女を引きとるところからだった。ただ、そういう話はみんな、葬式の席上で押し付けあってる親戚連中に腹を立てて思わず啖呵を切る、というエピソードにしてるんで、断りきれずに押し付けられるというのは結構珍しいのでは。
被虐待児の保護という話だと、ささやななえ「凍りついた瞳」というドキュメンタリーがあるが、フィクションだと、三原順はみだしっ子」とかになるのかな。

herecy8.hatenablog.com

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凍りついた瞳 (コミックス)

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  • 発売日: 1996/12/18
  • メディア: 文庫
続・凍りついた瞳 (コミックス)

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新 凍りついた瞳 (愛蔵版コミックス)

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  • 発売日: 2003/09/19
  • メディア: コミック