朝井まかて「銀の猫」

銀の猫 (文春文庫)

銀の猫 (文春文庫)

江戸時代を舞台にした介護小説。老人介護専門の女中「介抱人」などというものが実際に江戸時代にあったのかどうかは知らない。多分創作なんだろう。時代小説の名手が見事に江戸の風俗に混ぜ込んで、介護をネタに様々な親子関係を描いてみせる連作短編集。
主人公は25歳の出戻り、お咲。口入れ屋鳩屋の斡旋で、通いの介抱人として働いている。鳩屋でのキャリアは三年、その前にも嫁ぎ先で舅の介護をしていたこともあり、店ではベテランの扱い。それだけに難しい顧客も多くなる。忠孝の儒教道徳の建前と、拗れた家族内の人間関係の中で、介護する相手と心を通わせていくことができるお咲だが、自分の母親とは反りが合わず反目するばかり。そもそもその母親、佐和は奔放で浪費癖があり、大店の主人の妾奉公して散財を繰り返していたのが金が尽きて娘を頼ってきたが、娘の稼ぎを浪費するばかり。お咲が離縁されたのも、佐和がお咲の舅から返すあても無い金を借りていたから。お咲は母親の借金を返すため、給金の高い介抱人を続けている。
善人でも悪人でもないような市井の人たちが、拗れ切った関係に少し風を通すような、しつこくない人情話。