城平京「虚構推理短編集 岩永琴子の純真」

可憐にして苛烈、あやかしたちの知恵の神となった岩永琴子の活躍を描くシリーズ4作目、短編集としては2作目。妖怪やもののけ達の相談役として知恵を授ける一方、人と妖の秩序を「この世の道理」として守る調停役として非情なまでに厳正中立を保つ。彼女の推理はあくまで秩序を維持するための道具であり、時に真実とは異なる「信じられる物語」である。妖怪が引き起こした事件を、人間の行動のみで合理的に説明する、というような。怪異を否定した上で、関係者の不安定な心情を落ち着かせて秩序を再構築するというのは、京極堂の憑き物落としとも通じる。
本格ミステリでは、そもそも探偵の推理が本当に完全なのか、見落とした証拠がないのか、捏造された証拠に騙されていないのか、という疑問には答えられない。作品内で全て完結する、というのがルールだからであるが、こうした限界を「後期クイーン問題」という。しかしながら、あくまで相手を説得するための方便、としてしまえば、そうした問題は無効化してしまう。
所収第5話の「雪女を斬る」は、江戸時代の伝承を元に、3通りの解釈を提示するという「虚構推理」の面白さを思い切り堪能できる。
卓抜した頭脳を持ち、厳正なる秩序の番人であり且つ、自身の欲望には露悪的なまでに忠実なお嬢様である岩永琴子と、無理矢理その恋人にされた不死身の勤労青年桜川九郎を中心に魅力的なキャラが活躍するキャラ文芸としての魅力も高い。
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