斜線堂有紀「愛じゃないならこれは何」

極端なシチュエーションの恋愛小説を集めた短編集。ファンをストーカーしてアパートの部屋にまで忍び込んでしまう地下アイドルとか、映画と読書が好きなインドア派なのに男に合わせて山ガールを気取った挙句筑波山で死にかけるとか、筋立てはかなりコミカルなんだけれど、各エピソードの主人公たる女性たちの気迫と熱気が、ロマコメではないガチの純愛小説にしている。純愛、というのは少し違うかもしれない。熱血恋愛モノ?
各エピソードで、主人公の女性は男に恋し、夢中になり、感情をかき乱され続けるが、その恋愛の嵐の中で、彼女たちは一貫して確固たる主体であろうとする。自らの主体性を握りしめ、あるいは取り戻し、状況を制御しようとする。感情教育ならぬ感情権力闘争とでも言えばいいのか。ただしその闘争の相手は恋敵でも、相手の男性でもない。自分自身による、自分自身に対する闘争である。
それぞれ50ページ前後の5編のうち、4編は独立したエピソードだけど、最後の「ささやかだけど、役に立つけど」だけは「愛について語るときに我々の騙ること」の後日談となっていて、これだけ語り手が男性になっている。女性と共犯関係になる男の話だが、熱気というよりは醒めた切なさが感じられる。木原敏江摩利と新吾」の鷹塔摩利を思い出した。少女マンガ的な、理想化された男性像が入っている気がする。