ロバート・バー「ヴァルモンの功績」

20世紀はじめ、コナン・ドイルシャーロック・ホームズが人気を博していた当時、ドイルと親交のあった著者によるミステリ短編集。ホームズのパロディ2編も収録している。クイーン、乱歩が共に絶賛したとのお墨付きもあり、また夏目漱石吾輩は猫である」内で迷亭君が言及する小説の元ネタが本書中の「放心家組合」ではないかという評もあり、色々と興味をそそられて読んでみた。
ヴァルモンはパリ警察の元刑事局長だったが、クビになってイギリスで私立探偵をしている。いわゆる推理小説と思って読むとびっくりするのだが、結構失敗譚が多い。犯人に出し抜かれて終わったりするのだ。しっかり解決に導く話もあり、間抜けな探偵のコメディというわけではない。推理や論理というよりは、尊大で毒舌家のフランス人探偵の語りで不思議な事件や謎そのものを楽しむという形になっている。
妙に大時代な文体も楽しい。「霄壌(しょうじょう)の差」「弊衣を纏って跼天蹐地(きょくてんせきち)」「宸憂御無用」といった具合。