打海文三「ロビンソンの家」

ロビンソンの家 (中公文庫)

ロビンソンの家 (中公文庫)

「恋愛とは罠である」と断定する恋愛小説。罠だ、というのは一つには男と女のマーケットを支配してプレイヤーを束縛する複雑なルール、という恋愛資本主義的な意味での比喩。もう一つは、人間関係に過剰に意味を付与することが孕むリスクの象徴。暴力によってのみ切断されうるような、濃密な関係に絡めとられる仕組みの表現。
恋愛が他者へのロマンティックな思い込みであるように、本作も恋愛小説としてあらゆる一方的な思い込みが描写される。それは淫夢だったり通りすがりの女性へのエロティックな想像であったり、あるいは実在の人物をモデルにした創作であったり、不在となった少年の母親を中心としてさまざまな対象へのさまざまなレベルでの思い込みが交錯する。
受け手のない一方的な感傷であり続けることは必然的に挫折することで、罠として完成する。