2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

まあ、有り体に言って美夜は賢い猫、というわけではなかった。 椅子に座っていると、膝の上によく跳び乗ってきたものだったけれど、たいていは足下にぺたんと座ってみやみやとおねだりする。椅子を引いて、膝の上のスペースをあけてやると、おもむろに跳び乗…

体力が落ちてくると、免疫も弱ってくるのだろうか。日和見感染、というのはちがうのかもしれないが、風邪をひきやすくなったり、細々としたトラブルが続く。右目が充血したのも、その一つだった。 結膜炎、ということで色々また薬をもらうのだが、なかなかこ…

ご飯をやたらと食べてると思うと、10日か2週間くらいして急に食が細くなる。薬をご飯に混ぜているので、ご飯を少ししか食べないと、薬をどれだけのんでるのかわからなくなる。2日食べなかったら強制給餌、とメドを決めていたのだが、全く食べないという…

美夜はめったなことでは嫌がらないネコだったけれど、それでも一度決めたら絶対ひかないネコ特有の頑固さも持ち合わせていた。その確固たるポリシーの一つが、「薬はのまない」ことだった。錠剤ののませ方、というのはだいたい口を開けさせて、出来るだけ奥…

点滴では、美夜が急に動いたりして針が抜けたりしないように片手でおさえていたため、注射器を押し込むのは片手だけになる。溶液を無理矢理注入するのだから、これはかなり力のいる作業で、床に押し当てて体重をかけたり、いろいろ試したりもした。ただ美夜…

元気が戻ってきてからも、月2回くらいのペースで病院に通って、検査を受けたり薬をもらったりしていた。検査の数値が悪化してきて投薬だけでは足りなくなると、点滴が必要だと先生は言った。 腎臓の機能が追いつかなくなると、人間なら透析をすることになる…

食欲が戻ると、今度は嘘のように食べ始めた。 元気になると、夜、布団に潜り込んでくるようになった。あったかいからか、一緒に寝るのが好きで、朝起きようとするとみゃみゃと文句を言ったりする。ネコと暮らしてる人は、よく朝はネコに起こされると言うのだ…

強制給餌では、まずフードをポンプのシリンダー部分に詰める。最初もらったポンプが小さかったこと、当時のフードが固めだったことから、ただそのまま詰めただけでは、なかなかスムーズに押し出せなかった。なので充分柔らかくなるまですり潰してやる必要が…

それまでも、同じキャットフードを続けているうちに食べ飽きてしまうことはままあった。そんなときはいくつか種類を買ってきて、美夜が気に入るものを選べばよかった。でも、腎臓用療法食は選択の余地がない。チキンとフィッシュがあったが、どちらも口をつ…

病院で腎臓のトラブルを指摘されたのはいつのことだったろうか。あれから7、8年はたっている。以前住んでいたマンションの最寄り駅に近いこぎれいなクリニックで、レントゲン写真を見ながら説明を聞いたのは覚えている。 あの頃は、病院に行く機会は年1回…

美夜がいない家。 夜帰ってドアを開けると聞こえた啼き声がない。本を読んでいるといつのまにか足下にいて、お腹が空いたとせがむ啼き声がない。椅子に座った膝の上で咽を鳴らす声がない。いつも撫で擦っていた、あの手に馴染んだすべらかな毛並みがない。ふ…

通夜は、棺の用意もなかったので段ボール箱に入れて、保冷剤を頭とお腹に置き、クーラーを強めにかけた。 会社を休んで庭に穴を掘って埋めた。土は柔らかいけれど、地中は縦横無尽に根が張り巡らされていて、それが堅いものだから、ノコギリで切りながらの作…

今日、家のネコが死んだ。 名前は美夜という。みや、みやと澄んだ声でよくないた。真っ白な毛並みに、茶色のしっぽ、頭と足の先に茶色のぶちが入ったきれいなネコだった。 当時住んでいたマンションの駐輪場に居着いて、か細い声でないていた子猫を拾った、…