美夜はめったなことでは嫌がらないネコだったけれど、それでも一度決めたら絶対ひかないネコ特有の頑固さも持ち合わせていた。その確固たるポリシーの一つが、「薬はのまない」ことだった。錠剤ののませ方、というのはだいたい口を開けさせて、出来るだけ奥に錠剤を入れ、口を閉じさせてしばらく開けないようにおさえておく、というものだ。ずっとおさえていても、その間絶対のみこまずに我慢していて、放すと知らん顔して吐き出す。
仕方がないので、砕いてご飯に混ぜることにした。錠剤というのは、胃の中で溶ける速度とか考えて固めてあるらしいのだけれど、のまないのではしょうがない。病院の先生にも相談したけれど、とにかくのませるのが第一、ということで、かくしてご飯の準備もなかなかに手間がかかることになった。
薬の種類は次第に増えて、最後は4種類になったのだけれど、そのうちの一つがやたらと固い錠剤だった。なんとか半分に割って、その断面を手がかりにして少しずつ崩していく。心ならずも毎日練習することになって、爪だけで砕いていく技とか、はさみを使って割る技とか、いろいろ熟達したのだけれど、他になにか応用がきくというものではない。まあそれでも、美夜の寿命を1、2年は延ばせたのではないか。