リアド・サトゥフ「未来のアラブ人」

未来のアラブ人――中東の子ども時代(1978―1984)

未来のアラブ人――中東の子ども時代(1978―1984)

シリア人の父とフランス人の母の間にパリで生まれた作者の自伝マンガ。1巻は6才(1984年)まで。フランスで博士号をとった父は職を探してリビアに行き、フランスに戻り、それからシリアに行く。フランスのバンデシネっぽい、日本のマンガとは異なる絵柄で、格別ドラマチックなわけではない異国の日常が描かれる。一貫したストーリーラインがあるわけではないことと、子供の目線が中心で両親の事情が細かく描写はされないことで、強く感情移入が促されるということもなく淡々とした印象。同じアラブ人マンガでも、日本人の視点が意識されている「サトコとナダ」は異文化との接触や受容、共存というモチーフがわかりやすい。それに対して本書は、どうしても接点がわかりにくく、奇妙な異世界の奇妙な人たち、といった感想が強くなる。ナマなアラブ世界に触れる戸惑い、ということなのかもしれない。
巻末の解説で、おおよその時代背景は説明されている。ちょうどイラン革命とイライラ戦争の頃の話である。

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小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」

星系短絡機関を手にした人類が太陽系を脱出、汎銀河往来圏を成立、拡大させて八千五百有余年。周回者を自称する、巨大ガス惑星FBBの周回軌道上の移民船団は、惑星大気を泳ぎまわる「魚」を発見した。「魚」は、人間のイメージによって自在に変形するAMC粘土をもたらし、周回者はAMC粘土で作った礎柱船で漁を行うようになっていた。礎柱船は操縦を担当するツイスタと、AMC粘土の制御を担当するデコンパがペアとなって乗り込む。そしてツイスタとデコンパは夫婦でなければならない決まりだった。エンデヴァのテラは才能溢れるデコンパだが、自由すぎる礎柱船の変形が災いして、ペアとなるツイスタを見つけられずにお見合いを繰り返していた。そんなテラが出会ったダイオードと名乗る謎の美少女は、腕利きのツイスタだった。テラとダイの操る礎柱船は記録的な漁獲を叩き出すが、「女はツイスタになれない」という制約が二人の前に立ちはだかる。
ちょっと天然な大女のテラとヤサグレ系美少女ダイが巨大ガス惑星の対流圏で縦横無尽に飛び回る、ノンストップ痛快SF。最初はなんの話だかよくわからないけれど、読んでいくとドンドン加速度がついて止まらなくなっていく。

村田沙耶香「丸の内魔法少女ミラクリーナ」

丸の内魔法少女ミラクリーナ

丸の内魔法少女ミラクリーナ

芥川賞作家村田沙耶香の短編集。妄想と現実が鬩ぎ合う、汀の物語。でも読み終わると、いい百合SFだったなあと思える。
表題作はまさに、魔法の話。36歳のOL茅ヶ崎リナは魔法のコンパクトで魔法少女ラクリーナに変身して、日夜闇組織ヴァンパイア・グロリアンと戦っている、という「設定」で、ストレスフルな職場の毎日を乗り切ってきた。小学校で同じ魔法少女仲間だったレイコはもう魔法少女を卒業しちゃったけれど、今でもずっと親友だ。そんなレイコが付き合っている彼氏はひどいモラハラ男で、レイコは彼氏と喧嘩をしてはリナの家に逃げ込んでくる。リナは二人を別れさせようとするが、なぜかその男と二人で魔法少女として東京駅をパトロールすることになる。何を言ってるんだかわからないかもしれないが、そういう話なんだ。魔法少女が純文学になるとは思わなかった。実のところレイコが一番魔法少女に真剣で、それは現実を超えた純粋な、生きる糧となる”なにものか”なのだった。妄想が現実を駆動する。
秘密の花園」は奥手な女子大生が初恋の相手を監禁する話。サイコパスなホラーかと思って読んでたら、ただのビッチだった。ミラクリーナの暗黒面、とでもいうか、妄想の透明なエロスと生々しい実存との鬩ぎ合いに関する話だと思うんだけれど、おじさんにはピンとこなかった。現実が妄想を打ち砕く。
「無性教室」は性別を禁止された学校での、性別とは無関係に成立する恋愛とセックスの話。70年代少女マンガの、少年愛の美学を深掘りしていったような、「性もなく正体もわからないなにか透明なものへ向かって投げだされる」愛を描いたもの。現実を妄想に寄せて変容させる。
「受容」は、世の中から怒りの感情が無くなってきていることに違和感を覚えた主婦の真琴が、若者に怒りのパワーを取り戻させようとして、なもんで、まみまぬんでらしてしまう話。喜怒哀楽の感情といえどもそれは人間精神の本源的な働きではなく、新しい感情が発見され、名付けられ、流行となっていく。若者の風俗に違和感を抱く真琴の現実も、実は異様で、ワンピースの上から腹巻を巻くファッションが普通とか、読者の現実とはかけ離れている。妄想と対比されてきた現実は、曖昧で不確かな存在である。まあ「萌え」とか「エモい」とか「尊い」とか、名付けられることで表れる感情って、あるよね。現実もまた、言葉を介して立ち上がってくる以上、言葉によって操作されてしまう。

ユペチカ「サトコとナダ」

アメリカに留学したサトコのルームシェアの相手は、サウジアラビアから来た女の子、ナダでした。アメリカの文化と日本の文化とサウジアラビアの文化がごっちゃになった、不思議で楽しい学生生活。日本人とムスリムって接点少ないけれど、アメリカではどっちも異邦人なんですね。日本人が独特の仕方で西洋文明を受容したように、ムスリムもやはり独特の仕方で西洋文明を受容したんだなあ。全4巻。最後の方では、ナダの許嫁がサウジからアメリカまでやってきたりして、いろいろ騒動があったりするけど、でも、モノっすごく百合です。絵柄は、最初はなんだか不慣れな感じだけれど、あっという間にこなれていくので気にしないでいいです。

サトコとナダ 3 (星海社COMICS)

サトコとナダ 3 (星海社COMICS)

  • 作者:ユペチカ
  • 発売日: 2018/04/28
  • メディア: コミック
サトコとナダ 4 (星海社COMICS)

サトコとナダ 4 (星海社COMICS)

  • 作者:ユペチカ
  • 発売日: 2018/12/12
  • メディア: コミック

公式コミックアンソロジー「本好きの下剋上」4

アンソロジーもはや4集。範囲が原作第三部まで広がって、登場キャラもぐっと増えた。シャルロッテはとにかく可愛いし、アンゲリカはやっぱり描いてみたくなるよね。レッサーくんは意外に出番が少ないな。カルステッドはエルヴィーラと一緒に出てくる。フリーダは相変わらず人気だ。個人的にはペンギン・オルドナンツとダチョウ・オルドナンツが好き。
しかし上手く下町・神殿ネタと貴族ネタと半々になってるな。もちろん、ネタが偏らないように編纂したんだろうけれど、こういうのは依頼の時点で調整するんだろうか。

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つくみず「シメジ シミュレーション」

シメジ シミュレーション 01 (MFC キューンシリーズ)

シメジ シミュレーション 01 (MFC キューンシリーズ)

  • 作者:つくみず
  • 発売日: 2020/02/28
  • メディア: コミック
少女終末旅行」の作者の新作。頭にシメジの生えた女の子が、頭に目玉焼きのせた女の子と友達になる、シュールな日常4コマ。投げやりなんだけれど、ツッコミもします。終末世界でも、女子高生の日常でも、あんまりやることは変わらない。でもお姉ちゃんは真面目に世界を取り戻す研究をしてます。

香月美夜「本好きの下剋上」第五部女神の化身I

第5部第1巻、通算第22巻、いよいよ最終章突入だ。口絵は、レスティラウトが心を奪われたローゼマインの光る奉納舞と、白い大木のある始まりの部屋。エーレンフェストでは旧ヴェローニカ派への粛清が断行される一方で、貴族院では失われたグリトリスハイトの行方を巡っての思惑が交錯しはじめる。そしてまた領地対抗戦に向けて、ローゼマインはダンケルフェルガー、ドレヴァンヒェル、アーレンスバッハとの共同研究に取り組むことになる。ユルゲンシュミット全体の設定に関わる重要な要素として、神々の加護を得る儀式の話があって、今後のドラマのうねりに繋がっていく旧ヴェローニカ派の子供たちの話がある。貴族院の中でのドタバタで、派手な展開はないけれど、ローゼマインの影響力がユルゲンシュミット全体に及ぶことで、不穏な空気が漂いだしている。
プロローグはヒルデブラント視点、これはWEB版でもそうだった。この時点でラオブルートはどこまで考えてたのかね。中央騎士団長ならゲオルギーネより立場も上だろうし、ある意味最大の元凶に思えるが、本編での言及も少ないし。
エピローグはレスティラウト視点。嫁取りディッターに繋がるエピソード。
巻末短編はミュリエラ視点とオルタンシア視点。ミュリエラは本編だとそこまで描写がないので、お話好きなお嬢さんくらいの印象だったけれど、こうしてミュリエラ視点のエピソードを読むと、フィリーネとの違いもよくわかる。ローデリヒによるローゼマイン側近心得の解説が楽しい。オルタンシア視点は、本編ではほとんど言及のなかった中央貴族や上級司書のエピソードなので、貴重である。上級司書はメスティオノーラと契約魔術を結び、知識の番人となる。
特典SSはバルトルト視点。ヴィルフリートに名捧げした旧ヴェローニカ派の子供だ。マティアスやローデリヒとは違う、いわば生粋のヴェローニカ派で、シュツェーリアの盾に弾かれそうなキャラ。ギーべ・ゲルラッハや前の神殿長とは違う、子供っぽい傲慢さがいやらしい。オズヴァルトと意気投合してるし、今後の展開の重要な伏線になっている。
同梱のOVAは、アニメ第1シーズンと第2シーズンを繋ぐ、ユストクスの下町潜入大作戦とコリンナのお宅訪問。ユストクスとエックハルトは第2部では出番ないので、貴重なエピソード。原作を切り貼りしてアニメらしくまとめている。コリンナのお宅訪問は、エーファのキャラ掘り下げと、マインの本気商談がメインかな。
香月美夜白浜鴎の対談と、オットー視点のSSがついている。SSはオットーが兵士を辞めることになる事情に関するエピソード。

【合本版 第一部】本好きの下剋上(全3巻) 本好きの下剋上(合本版) (TOブックスラノベ)
【合本版 第二部】本好きの下剋上(全4巻) 本好きの下剋上(合本版) (TOブックスラノベ)
【合本版 第三部】本好きの下剋上(全5巻) 本好きの下剋上(合本版) (TOブックスラノベ)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員I」 (TOブックスラノベ)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員II」 (TOブックスラノベ)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員III」
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員IV」
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員V」
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員VI」 (TOブックスラノベ)
香月美夜「本好きの下剋上」第四部貴族院の自称図書委員 - ねこまくら
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