点滴では、美夜が急に動いたりして針が抜けたりしないように片手でおさえていたため、注射器を押し込むのは片手だけになる。溶液を無理矢理注入するのだから、これはかなり力のいる作業で、床に押し当てて体重をかけたり、いろいろ試したりもした。ただ美夜は協力的、というかむしろ喜んですらいるようで、最初から一度も暴れたりはしなかった。
美夜はよくしゃべるけど、概しておとなしいネコで、お腹なでようがなにされようがされるがままになっている。点滴も、嫌がるふうではなかった。針を刺されて、冷たい溶液がぞろりと入ってきても、リラックスしていた。両足の間に座らせて、肩甲骨よりも背中寄りのあたりの皮膚をつまんで、針を突き刺すと、抜けないように片手で抑え、注射器を自分の肩の当たりに力一杯押し付けて注入するのだが、美夜は決まって私の右の太ももに上半身をあずけ、両手を伸ばして気持ち良さそうにしていた。入ってくる溶液の感触を楽しんでるようにすら思えた。
針を抑えてる方の手をはなして、両手で注射器を押してもよかったのだが、そうしなかったのにはもう一つわけがある。刺し方が浅いと水の圧力でぬけてきちゃうことがあるのだ。そもそもうまく刺さってなかったり、突き抜けちゃってることもある。そういうときは、溶液は中に入らず、毛皮を濡らすことになる。一度気づかずに点滴していたことがあって、ズボンが冷たいのに気がついたときには、美夜の背中半分からお腹がびしょ濡れになっていた。
あと、これは誰にも信じてもらえなかったのだけれど、針の開けた穴で塞がらないのがあったのではないだろうか。よくわからない理由で、液が漏れてくることがたまにあった。毎日2回、おなじようなところに針を刺してるので、注射だこみたいなのが出来ないかと心配だったのだけれど、それは大丈夫だった。病院の先生も、心配いらない、と言ってくれた。でも、穴が残ることはあったのではないか、とも思っている。