まあ、有り体に言って美夜は賢い猫、というわけではなかった。
椅子に座っていると、膝の上によく跳び乗ってきたものだったけれど、たいていは足下にぺたんと座ってみやみやとおねだりする。椅子を引いて、膝の上のスペースをあけてやると、おもむろに跳び乗ってくる。しかし机に向かって座っているときに、いつのまにか机の下に座っていることがある。そういうとき、椅子を引くのを待たずにそのままジャンプして、机の天板の下に思い切り頭をぶつける。ごとん、とものすごい音をたてるので、こちらは心配するのだけれど、美夜は、なんかおっきな音しなかった?という感じで何事もなかったような風情である。一回、二回のことではない。何度も机の下でジャンプして、必ず頭をぶつけるのだ。こいつもしかして、莫迦なんじゃないかと思った。
虫とか怖がるのは、ネコとしてどうかとは思うが、まあずっと飼い猫として人間に育てられてきたのなら仕方ないのかもしれない。一度、なんか変なやつがいる、変なやつがいる、と騒ぐので見に行ったら、ボールペンくらいのサイズのヤスデがいたことがあった。
美夜はふみふみも下手だった。ふみふみとは、ネコが左右の前脚で交互に、クッションだの人のお腹だのをリズミカルに押す習性だ。ネコなら必ずやる、有名な動作で、赤ちゃんのときに母親のお乳を飲むために、おっぱいをもむために必要な習性といろんな本に書いてある。美夜はそれがどうにもうまくない。両手でいっぺんに押したり、うまくリズムをとれないのだ。そんなのネコじゃない、と言われてもなかなか言い返せないレベルかもしれない。