A Star is Born

バーチャルアイドル、ってのが具体的にどういう存在なのか、実は誰にもわかってなかった。初音ミクの歌を聴いて初めてそのことに気がついた。
キーワード「バーチャル」の説明文には、virtualとは「事実上の、実質上の」という意味だとある。バーチャルアイドルとは、つまりアイドルの実質、本質的なアイドルということだ。じゃあアイドルの本質とはなにか。ファンの夢、憧れ、想い、愛情、欲望、一方的に萌える気持ちを無限定に受け入れる偶像だ。
なぜ初音ミクは本質的なアイドルなのか。歌声だけが存在し、実体がないからだ。「初音ミク」そのものは単なるシーケンサーソフトであって、アイドルでもなんでもない音楽ツールにすぎない。ソフトとしての機能が高いことはアイドル「初音ミク」を産み出すために必要だった。でもそれはアイドル「初音ミク」の実体ではない。アイドル「初音ミク」はプログラムの中ではなく楽曲の中にいる。ニコニコ動画の中にしか存在しないのだ。ファンの、ユーザーの、職人の、思い入れの総体が初音ミクそのものである。歌う声だけが存在するアイドルなのだ。
生身のアイドルであれば、アイドルとして以外の生活があり、人格がある。アニメやゲームなどのキャラには、作者がいるし元々の作品世界がある。ファンの思い入れ以外の部分が存在している。それでも、キャラが一人歩きしていくことはある。二次創作がキャラを原作以上にふくらませて、それが人気を得ることはある。複数のファンやユーザーやクリエイターが相互に影響し合ってキャラを育てていくことはこれまでもあったし、結果として原作から離れていったキャラもいる。それを初音ミクは一からやったわけだ。パッケージのイラストの作者はいるし、声を提供した声優、ソフトの開発者はいるけれども、アイドル「初音ミク」には特権的な作者も中の人もいない。ファンの想いだけが存在する、まさにバーチャルアイドルなのだ。
ただ、思い入れだけの存在であっても、声だけは一貫して同じであり、実在する。思い入れだけの存在でありながら、自然な人間の歌声が強力な存在感を発揮する。そして、形のない萌える想いと、歌声を結びつけて、スパークさせたのがこれだった。

多分、このときなにかがはじけた。
これまでに聞いた合成音声に比べて格段に自然な歌声だけれども、機械くささは拭えない。でもそれが、機械が歌っているというリアリティを感じさせる。「してやんよ」の詰まったような歪み方は妙にエロチックでさえある。人間ではない、人間のように歌う何か。全く新しいアイドルが、その時生まれた。
ということで、サイドバーに入れてみた。