山田芳裕「へうげもの」

ちょうど大阪冬の陣と夏の陣の間の話です。「真田丸」と見比べるのも一興かと。同じ史実に基づく以上同じ話が出てくるけれど、随分違う話に料理してるよね。真田信繁はここでは端役の扱いで大野治長とかの方がよっぽど活躍してたりするし。何より「真田丸」は大阪方の混乱にウェイトをかけてたけど、こっちはむしろ新たな社会秩序を打ち立てようとする家康の意思にウェイトを置いた描き方になってる。
破調の芸術家であり武人でもあった古田織部の生涯を描くマンガなので、「数寄」であったり「侘び」であったり、「剽げ」といった感性が主題になってくる。そういう感性が人を動かし、時代を動かしていく史観が、面白い。人を動かし、治める上で「数寄の力を借りる」と行った表現が何度も出てくる。それに対して家康は儒教的な正義を以って天下を治めようとするわけだけれど、これまで歯牙にもかけなかった「数寄の力」の脅威を、ここで初めて身内に刻むことになる。そのきっかけが明智光秀ってのは、利休が光秀の辞世を聞いて自害を決意するエピソードとつなげてるんですね。
ちなみに、「へうげもの」の中で明智光秀の辞世の句ということになってる「月さびよ 明智が妻の咄せむ」は実は芭蕉の句ですね。ホントの辞世は、なんか漢詩です。