イスラーフィール「淡海乃海 水面が揺れる時」

戦国時代を舞台にした本格歴史改変小説。50代のサラリーマンが近江の国人領主朽木元綱に転生して、動乱の時代を生き抜いていく。小説では「基綱」の字を使い、少しづつ歴史が変わっていく一つの徴になっている。朽木元綱は信長、秀吉、家康に仕えた歴史上の人物で、朽木氏は大名として家名を保ち明治維新まで存続している。なかなか渋い人選で、琵琶湖のほとり八千石の小さな領地経営から話は始まる。最初はなかなか時代も場所も特定できなかったりと、細かいところで説得力を積み上げている。権謀術数から合戦から、面白いエピソードでつなげつつしっかり段取りを踏んで成り上がっていく物語に引き込まれる。短い章ごとに話者を変える構成になっている。これはヘタをすると読者が混乱するだけになるけれど、わかりやすくしっかりと視点の転換を行っていて、一人称小説と三人称のいいとこ取りをしている感じ。
もともと「小説家になろう」に投稿された小説で、現在まだ連載中。およそ発表分の半分ほどが書籍化している。「なろう」の方は3月で投稿が止まってるんだけど、なかなか壮大な話になっている。コミック版もあって、琵琶湖周辺の細かい地理だとか、次から次へと出てくる登場人物の見分けだとかは絵で見られるコミックが便利。さらに、主人公が最初に朽木家を継げずに養子に出される、別ルート版「異伝淡海乃海 羽林、乱世を翔ける」もある。公家となって武士を操るという、こっちも面白いんだけど、まず正伝を進めてほしいと思う。