ヘンリー・ダーガー展

いろいろと描き込まれた3メートルの作品は、縮小された印刷で見るのとは違った生々しさがあった。
チャールズ・ドジスンが世界最初のロリコンなら、ダーガーは世界最初の萌えオタか?ダーガーは雑誌や新聞の少女ピンナップを蒐集し、膨大なスクラップを残した。自作の1万5千ページ余の小説非現実の王国で」の挿画のために切り抜いてコラージュを作った。それから絵や写真をトレースし、さらには特に気に入った数枚を写真にとって引き延ばしてトレースした。そうした素材をもとに画用紙をつなげた3メートルの紙に鉛筆と水彩で数百点におよぶ少女たちの楽園と戦争のイメージを作り上げた。
少女の元ネタは写真とコミックとがあって、明らかにタッチが違う。写真のトレースと思われる少女は無表情だし、口を開けたりして表情をつけようとした絵はダーガーのオリジナルタッチなんだろうか、稚拙というかずっとぎこちないままだ。同じネタ元の少女、同じ構図同じ表情で服装と髪型だけ違う同じ少女が何人も並んで一つの絵の中に描かれるし、何枚もの絵に共通して使われている。普通に考えればダーガーのお気に入りなんだろうけれど、手癖とかは現れない。それぞれトレースした時のタッチが保存されている。あれだけ大量に描いたらいやでも自分の絵になってしまうと思うんだけれど、複数のタッチが共存する絵のままでずっといろんな素材をトレースしたコラージュという感じだったのが、なんだか不思議だった。バリエーション豊富な髪型の描き方はコミックが手本なのかな。
色使いのセンスとかは一貫して、パステル調の配色はキレイ。色の塗り方は広い範囲を平面的にむらなく塗りつぶしてるのがほとんどだけど、背景ではハイライトを入れたり影をつけてアニメ塗りになってるのもある。
物語の主人公はヴィヴィアンガールズと呼ばれる7人姉妹なんだけど、絵を見ても誰が誰だかわからない。一応ツバ広の帽子かぶってるのがヴィヴィアンガールズらしいんだけど、それぞれの名前とかは研究されてるんだろうか。ダーガーにとってキャラへの思い入れというのはなかったんだろうか、絵から読み取るのが難しいってことなんだろうか。
少女のモチーフとしては、ペニスをつけた少女のことが有名なんだけど、見てたらむしろ繰り返し描かれる牡羊の角をつけた少女が気になった。これっていわゆるケモノっ娘だよねえ。あと残虐描写も有名で、血まみれだったり内蔵ぶちまけたりしてる絵もあるけれど、むしろ首を絞められて苦しんでる少女の表情が妙にリアルなのも気になった。一見楽園の平和な絵なのに、後ろの方に小さくブドウの蔓で首締められて吊るされてる少女がいたりして、けっこう怖かった。