瀬名秀明「パラサイト・イブ」

パラサイト・イヴ (新潮文庫)

パラサイト・イヴ (新潮文庫)

  • 作者:瀬名 秀明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/09/30
  • メディア: Kindle
今イチ読む気にならなかった本だったけれど、基本文献かなあと思ってようやく読んだ。やっぱり読まずにいた私の判断は正しかった。
一番印象に残ったのは、男になったり女になったりして肉の塊のような怪物が人間を襲うところ。人類に取って代わると宣言したミトコンドリアはエッチすることばっかり考えてるみたいだし、実際ベッドシーンになると描写にも力が入ってくる。エログロが書きたかったんだなあと思うのもあながち的外れではあるまい。
でもそれだったらミトコンドリア研究の詳細に拘らずに、怪物をもっと大暴れさせてほしかった。ゾンビみたく襲われた人間やら犬猫もみんな怪物になるとか、人知れず地下室かなんかで増殖してて部屋中娘細胞とかが蠢いてるとか、いろいろあるじゃない。ありがちと言われればありがちなパターンだけど、水道の蛇口から侵入してくるんだって似たようなもんでしょ。スクワームとかあったし。
一番ホラーとして恐怖を盛り上げてくれるのは、移植患者の女の子なんだけど、クライマックスのいいところで意識を失っちゃう。エログロを目指しても、エログロに徹しきれてはいない。まあ、それだから大賞受賞作なのかもしれないけど。別に腎臓移植や細胞培養の手順を事細かく書き込んだって、下水道を伝って襲ってくる肉塊にリアリティが出るわけじゃないんだよね。なんかかえって、ミトコンドリアを擬人化したりする荒唐無稽さが気になっちゃう。生理化学の詳細を積み上げていって「ミトコンドリア」の反乱というSF的なアイデアセンス・オブ・ワンダーを味合わせるのか、読者に考えるヒマも与えない息もつかせぬ展開で引っ張るのか、どっちにもつかない中途半端という感じ。リアリティのレベルが混乱してる。
ミトコンドリアに乗っ取られる奥さんの回想シーンもやたらと多い。要するに乗っ取られていく過程の描写なんだけど、例えば自分が得体の知れない別のなにかに変わっていく不安のような恐怖を盛り上げていくというわけでもなく、単に説明してるだけ。ロマンティックなエピソードを積み重ねた上で「完全に仕組まれた関係の中に生み出された恋愛感情は幻か?」というような方向で書き込めば、泣かせる話しにもなったんだろうけど、肝心の主人公がそんな問題には気付きもしないんでネタとしては不発に終わっている。
で、一体どのへんがクーンツなんだ。