ユナイテッド93

2001年9月11日、アメリカ上空で4機の旅客機がハイジャックされ、そのうち3機がそれぞれ攻撃目標に突っ込んだ。これは、乗客の抵抗によって目標に到達せずに墜落した4機目の物語。最終的には、その最後のフライト中に93便の機内でなにが起こったのか正確なことはわからない。これは知り得た事実をもとに、あり得た真実を再構成した、いわば再現ドラマである。地上の管制センターや防空本部の軍人たちの多数は実際にその日そこにいた人たちであり、まさに映画は9.11の朝の追体験となっている。
説明らしい説明はなにもない。そのとき、誰も事態を把握できずに混乱していたからだ。想定外の事態に出会って混乱しながら、なんとか対処しようとしていた。ここにはキャラクターのためのエピソードとか、構成されたドラマとかはない。ドキュメンタリーよりもさらに禁欲的な演出である。まさに、その場に居合わせたかのように感じさせる迫真性がある。
前半は、混乱の中でなんとか状況の展開に追いつこうとあがく航空管制、防空システムと、出番を待つハイジャック犯のドラマだ。93便は離陸が予定より遅れ、さらにハイジャック犯が実際に行動を起こすまでにかなりの時間があった。他の3機が離陸の直後にハイジャックされているのになぜ93便のハイジャックだけ飛行後40分たってからだったのか、離陸の遅れで計画の漏洩など疑心暗鬼に陥っていたのではと推測されるが、これも真相は不明である。映画でも特に説明はなく、緊張したハイジャック犯たちの表情を映すだけであるが、これが混乱する地上との対比になっている。
後半は、ハイジャックされた機内での物語だ。死の恐怖をはさんで対峙する犯人達と乗客が、それぞれ違う神の名を繰り返し繰り返し唱えている。なにがあったのか正確な事実は、誰にも分からない。映画はあり得た一つの可能性を、迫真の演出で再現してみせる。それは、残された人たちが突きつけられた突然の死を受け入れるために必要な物語である。