坂東眞砂子「くちぬい」

定年退職後の人生を山奥の田舎で暮らすことにした夫婦が、怖い目に遭う話。美術教師だった夫は、趣味の陶芸のためにいい土のある山を探していたものの、奥さんの方は都会を離れることに乗り気ではなかった。ところが原発事故があったおかげで、放射能から逃げようと、引っ越しに積極的になった。
なんの係累も無い田舎に態々超してくると、だいたい地域に溶け込もうとしていろいろと付き合いを始めるんだけど、思い通りにいかないと一転理不尽な村のしきたりだの人間関係だのと戦いだす。まあ、そして妙なことが起こったりして、ホラーになっていく。そのへんはパターンなので、現代風俗と、前近代的な因習の組み合わせ方の、アレンジでうまく雰囲気を出せるかどうかがキモ。これは、小道具の使い方とか、けっこう好みでした。
まあ陰惨な話で、救いもないんだけど、乾いた文体で印象もそんなに暗くなかったりする。短いし、読みやすい小説です。

くちぬい

くちぬい