龍の歯医者 前編 天狗虫編

「死ぬことがわかってて、それを避けようとしないなんて自殺と同じじゃないか」
「生きることって、長生きするのが目的なの?」
スタジオカラー初のTVアニメ。鶴巻監督で原作脚本は舞城王太郎。龍、といっても見た目はクジラみたい。
無敵の空飛ぶ要塞である龍のメンテナンスをする職能集団が龍の歯医者。龍のメンテナンスとはすなわち龍の歯のメンテナス。歯医者の仕事は文字通り龍の歯を磨き、虫歯菌を退治すること。虫歯菌といっても、龍の歯から湧き出てくる荒魂のようなもの。龍の歯からは他にも色々湧き出てきて、死者が蘇って出てきたりもする。龍の歯は死者の魂の通り道、ということらしい。
龍の歯医者は自分の死ぬ時を知っている。龍は歯医者候補に自身の死の場面を見せて、その運命を受け入れたものだけを歯医者として認めるからだ。龍は運命に抗うことを許さない。しかし、その運命に抗った者がいた。
第二次大戦中っぽい時代背景で、飛行機は複葉機は存在するのか?で、龍が制空権を握っている。修験者みたいな歯医者たちの居住空間は龍の顎の下、中空に吊り下げられ、渡り廊下でつながった木造の家屋。龍の背には甲板が張られて、戦艦のように艦橋があって軍人たちが詰めている。巨大な戦艦の艦砲射撃、爆発炎上のプロローグから一転して淡い水彩のような色で描かれた、山間の古い旅館のような宿舎と歯医者たちに切り替わる。独特な世界観にいきなり引き込まれた。無駄なシーンが一つもなくって、全編目が離せない。
歯医者と虫歯菌とのバトルは、もののけ姫とか千と千尋とか、ジブリを思い出すけれど、天狗虫の暴れ方はカラー、というかガイナだなあ。主人公野ノ子は運命を納得して受け入れて歯医者の仕事に誇りを持つ明るく元気な女の子。彼女が先輩として世話するのは、戦死して龍の歯の中から甦った敵軍の少年兵ベル。覚悟のないまま士官学校を出て戦死した「よみがえり」のボンボンのモラトリアムっぽさは、野ノ子の明快な覚悟と対比されると、やっぱ碇シンジを思い出すなあ。野ノ子と綾波は全然タイプが違うけど、悟りきったような潔さは共通してる。
あー、野ノ子役の声優って、今話題の清水富美加なんだ。無事完パケできてよかったね。