よしながふみ「大奥」

男女逆転の江戸時代史。最初聞いた時ははワンアイデアのコメディかと思ったけど、重厚なドラマを重ね合わせた宮廷史劇で、しかもしっかりSFとして筋を通した大長編大河ドラマだった。最新巻の帯には歴史の勉強になるとか書いてるけど、いやどこまで史実でどこまでフィクションが区別つかないし。史実を混ぜ込んで虚実ないまぜにした手際は、むしろ歴史を知ってた方が楽しめる、というべきでは。しかし江島生島とかは柴田錬三郎時代小説で読んだけど、今だとどのくらいの知名度なんだろう。江戸時代通史を扱ったみなもと太郎風雲児たち」と読み比べたりするのは面白いと思う。キャラクタ重視、という点では両者共通するところがあるだけに、扱いの違う人物の描写の差とか、扱いが近い人物とか、比べるのは面白い。家光と春日局の時代から最新刊では家定と篤姫まで来たけど、12巻までで一区切りついて、13巻から幕末編ということで途中からでも読めるという触れ込みになってる。さらに分けるなら8巻までが吉宗編、12巻までが医療編という感じかな。
人間関係のドラマで、とにかくこれでもかというくらい泣かせどころを作ってくる。男同士、女同士の権力闘争があり、男女のドラマがあって、しかも悲劇が多い。物語のタイムスパンが人の一生よりはるかに長いわけだから、登場キャラはみんな途中で死ぬわけだし、ハッピーエンドで区切れないからね。せいぜい穏やかな晩年を過ごしました、くらい。
ドラマでも、将軍と側近の主従関係のドラマ、というのが繰り返し出てくる。吉宗と加納久通とか綱吉と柳沢吉保とか、家宣と間部詮房とか。最新巻では家定と阿部正弘が情の厚い信頼関係のドラマを盛り上げている。これ男同士だと完全にBL行っちゃうんだけど、女同士でやっても百合っぽくならないなあ。あらゆる人間関係がドラマとなって、歴史を作っていくという史観は女性作家らしさ、なんだろうか。