S.L.グレイ「その部屋に、いる」

その部屋に、いる (ハヤカワ文庫NV)

その部屋に、いる (ハヤカワ文庫NV)

欧米の流行りで、「ハウススワップ」というのがあるそうです。要するに休暇とかに、お互いに家を交換するわけです。例えば、バカンスで利用すればホテル代を節約できるということで、仲介サイトもあるようです。南アフリカケープタウンに住んでるマークとステファニーの夫婦は、ハウススワップの仲介サイトでパリのアパルトマンを見つけて、休暇を過ごしに出かけます。しかし着いてみると、実際の部屋は紹介文とは全く違う、人気のない廃墟のような建物の中の、陰気で不潔な部屋でした。一方、家を交換した相手であるフランス人のカップルは、ケープタウンの家には姿を現しません。
マークとステファニーは、ケープタウンの自宅で強盗に遭うという経験をして、それ以来夫婦仲がギクシャクしていました。お高い溝を埋めようとして計画した旅行なので、なんとか楽しもうとするのですが、不安を煽るようなことが続きます。
マークとステファニーが各章ごとに交代で語り手となる変則的な一人称小説で、その為こじれて行く夫婦関係が生々しく描かれます。お互いに考えてることが次第次第に離れて行くわけですが、そこに非現実的な妄想が混ざり込んできます。現実と妄想が混在し、次第に区別がつかなくなって世界が不安で薄気味悪くなって行く感覚は、スティーヴン・キングを思わせるところがあります。キングの場合、正気と狂気の境界が曖昧になって侵されていく怖さがありますが、グレイの場合はそこで語り手が切り替わり、側から見た不気味さが露わにされるのです。
怖いと言うか、薄気味悪く不安にさせられるサイコスリラーです。