庵野ゆき「水使いの森」

水使いの森 (創元推理文庫)

水使いの森 (創元推理文庫)

一つの大きな島である「火ノ国」は東の豊かな穀倉地帯を治めるカラマーハ帝国と、西の砂漠地帯を収めるイシヌ王国に分かれていた。イシヌを統べるのは水を自在に操る水丹術士の女王である。女王には双子の娘がいた。王国では末子相続が習いとなっており、妹のアラーニャ姫に王位継承権がある。しかし、幼くして水丹術の抜きんでた才を示したのは姉のラクスミィ姫であった。自身が国乱れの元となることを懸念したラクスミィは、独り密かに城を抜け出した。そしてラクスミィは、水蜘蛛族の女、タータとラセルタに出会い、砂漠の西の果てにある西ノ森へと向かう。水蜘蛛族は、西ノ森の奥深くに住む、伝説の水使いたちである。一方、失踪した姉姫を廻り、水の覇権を狙う様々な勢力がそれぞれ追跡を開始していた。
とにかく、「丹」を介して水や風、光などを操る「丹導術」の設定が素晴らしい。風丹術は振動や圧、波動を操る。光丹術は粒子と波動の両方を操る。火丹術は熱量、土丹術は部室の結合力、その他金、磁、氷、闇、雷と様々な分野があり、その全ての「丹」を使いこなす者が水を扱える。
術士は古代の比求文字で綴られる「比求式」を唱えることで術を使うことができる。比求式は世界の全てを表せる神様の言葉を無理やり人間の言葉に翻訳したもの、その上っ面を撫でているにすぎない。しかしその「式」を読み解き、自在に組み合わせることで強大な力を振るうことができる。
全身に「式」を刺青として入れた身体で舞を舞うことで術を使う水蜘蛛の男たちと、男に「式」を掘り込む水蜘蛛の女たち、その生活空間も風俗もしっかり書き込まれ、ビジュアル的にも魅力ある。
幼いながら王者の矜持を持つラクスミィ姫。比求式を自在に操り、「丹」そのものの解明を目指す気ままな女タータ。そしてタータとことあるごとに対立する、やはり水蜘蛛族の女から・マリア。三人ぞれぞれが魅力的。
魔法アクションあり、宮廷陰謀劇あり、舞台も砂漠、森林、滝壺の上に浮かぶ水の繭、湖底の巨大な門、満天の星の下の聖樹と見所たっぷり。