川端裕人『リスクテイカー」

リスクテイカー

リスクテイカー

前作の「夏のロケット」では、ストーリーを動かし、進めていく原動力はロケットであり、火星への情熱であった。本作では、それがない。腰巻きには「現代経済の教科書」と書かれていたが、まさにそんな感じ。市場経済とはなにか、投資とはなにか、為替とはなにか、から先物、オプションの仕組み、最近の世界経済面でのトピック解説までわかりやすく上手に説明しています。オプションの投資戦略とか、細かいところで気になる部分もありましたが、小説の制約から仕方がないのでしょう。投資理論上でのファンタスティックなアイデアがキーになっている、ハードSFの経済学版なんだと思いますが、それを登場させるためにいろんなことを説明しなくちゃならないところが大変です。やっぱり「オプション」ってまだ説明なしでは使えないんでしょうか。 引退したヘッジファンドの巨人が見る夢、国際為替市場に仕掛けた三日間戦争、そしてカオス理論を組み込んだ究極の投資モデルなど魅力的なアイデアがふんだんにちりばめられ、キャラクターの配置も巧みです。マイノリティの視点からアメリカ製のグローバルスタンダードを照らしてみたり、製造業から金融資本主義を照射したりと構造に奥行きをもたせています。そんな感じで面白い小説の設計図にはなってるんだけれども、ただ面白い小説になるためにはプラスアルファがほしいなあ。核心のアイデアの部分は、謎として引っ張ってるんで、あんまし書くとネタバレになっちゃうんで詳しくは読んでみて、なんだけれど、これって謎で引っ張る必要あったのかなあ。 ショールズ博士と議論したり、アンワル副首相(当時)にインタビューしたりドキュメンタリーっぽい作りになってる分、主人公たちへの共感が薄らいでしまった気がしました。自分の詳しい分野だと、リアルになるほど点が辛くなるということかもしれません。でもホモのファンドマネージャーはいい。グリーンスパン議長もいい味だしてる。少なくとも、新しい小説であることは間違いありません