川端裕人「青い海の宇宙港」

青い海の宇宙港 春夏篇

青い海の宇宙港 春夏篇

青い海の宇宙港 秋冬篇

青い海の宇宙港 秋冬篇

川端裕人「夏のロケット」に触発されてあさりよしとおが「なつのロケット」を書き、更にそれに触発されて書いたのが本書。小学生がロケットを打ち上げる話である。その系譜は、前史として野尻抱介ロケットガール」や、映画化もされた「ロケットボーイズ」へと辿ることができる。設定上の制約と、成し得ることのバランスで、それぞれ性質が異なるが、いずれも「自分の手でロケットを打ち上げたい!」という衝動をストレートに描く作品群である。たかだか地球の周回軌道までの話がしっかりSFになるというのは、シンプルな物理法則が宇宙を動かしているというのを実感できるからではないか。「なつのロケット」の印象的なラストシーンを本作でもリスペクトしてるけれど、いずれも宇宙を動かす物理法則に則ることで、自分もまた世界とつながっていることをストレートに示している象徴的なシーンとなっている。ただ、本作では「小学生がロケットを打ち上げる」ための設定の整合性にこだわって、著者が「川の名前」で見せたような科学少年の冒険譚としての躍動感は抑えられているように感じた。
夏のロケット (文春文庫)
なつのロケット

進め!なつのロケット団 1

進め!なつのロケット団 1

これは、その、あさりよしとおが、ひょんな事から本当にロケットを作ってしまうという、ほぼ実話に基づいたマンガである。日本初の完全民間主導による液体燃料ロケット開発の記録となっている。川端裕人の「青い海の宇宙港」に登場する、北海道のロケット会社というのも、これをモデルにしているのではないか。
ロケット開発の歴史と、基本的な解説については、同氏の「まんがサイエンス」が面白い。
まんがサイエンス (2) (ノーラコミックスDELUXE)
文庫 ロケットボーイズ 上 (草思社文庫)
文庫 ロケットボーイズ 下 (草思社文庫)
女子高生、リフトオフ! (ロケットガール1)
「青い海の宇宙港」にしろ野尻抱介ロケットガール」にしろ、ロケットビジネスにおけるロケットの巨大化に対抗して、小型ロケットの利用することがコンセプトとなっていたが、現実にも小型ロケットの運用がニュースになっている。

宇宙航空研究開発機構JAXA)が超小型衛星を宇宙に届けるミニロケットの1号機を12月にも打ち上げる。超小型衛星は開発期間や製造コストが手ごろで、大学や民間に需要があるが、これまでは大型衛星に「相乗り」して打ち上げてもらうしかなく、普及の足かせとなってきた。専用ロケットの登場で、利用にはずみがつきそうだ。(2016/9/23 日本経済新聞

また「青い海の宇宙港」では、超小型サイズの観測機を太陽系外に向けて飛ばすが、こちらも現実化しつつある。

英国の著名な宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士は12日、ニューヨークで記者会見し、光速の5分の1という極めて速い速度で飛ぶ小型探査機「ナノクラフト」を開発し、太陽系外の惑星や生命体を探す計画を発表した。(2016/4/13 日本経済新聞

この「ナノクラフト」による小型探査機というアイデア野尻抱介「沈黙のフライバイ」でもキイになっている。

沈黙のフライバイ

沈黙のフライバイ

herecy8.hatenablog.com

27ページの短編だが、極めて壮大なイメージの広がりをもたらすファーストコンタクトテーマのSFの傑作である。観測結果から導き出される結論から想像を逞しくすることに禁欲的に振る舞い、ドラマティックな感動を盛り上げるのではなく、人間の灯した科学という小さな光を描くことで廻りに広がる闇の深さを示すかのような詩情あふれる余韻を残している。