葛飾北斎の三女お栄の物語。父の画才を受け継いだだけでなく、作画にのみ打ち込み他に頓着しない辺りも似た者父娘だったらしい。応為と号し、浮世絵に陰影の表現を持ち込んだ。真作とされる作品は極端に少ないけれど、
北斎作とされる作品には彼女の手の入っているものが多く含まれているとされている。そんな彼女の二十代から六十代までの一代記。束縛を嫌う
北斎というキャ
ラクタ、残されている資料の少なさから、
作家が造形できる余地が大きいこと、絵師という職業柄江戸風俗がふんだんに取り込めることから、
歴史小説と時代劇の味わいを損なわずに相乗させた極上の読み物。同じく
北斎父娘を描いた
杉浦日向子「
百日紅」と合わせ読むのも佳。