野尻抱介「沈黙のフライバイ」

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沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)

27ページ、215kバイトのファーストコンタクト・テーマの短編。著者が小説の最後に付記しているが、本作は野田篤司氏の恒星間探査機に関わる私的研究から生まれたアイデアに基づいている。正直にいって、ここに書きこまれた設定の科学考証は私の手に余る。ただ、作品の中で事実に基づく推論と、実証の手段がない想像とをより分ける手つきが、なにより科学的であるということは言えるだろう。観測結果から導き出される結論から想像を逞しくすることに禁欲的に振る舞い、ドラマティックな感動を盛り上げるのではなく、人間の灯した科学という小さな光を描くことで廻りに広がる闇の深さを示すかのような詩情あふれる余韻を残している。