- 作者: ひらりん,大塚英志
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/11/04
- メディア: コミック
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また、少女マンガの起源を、ミュシャと与謝野晶子に見出したことも私にとっては新たな知見であった。ミュシャは80年代少女マンガによって再発見されるけれど、そもそも与謝野晶子の歌集の表紙がミュシャのパクリで、ここから竹久夢二や中原淳一などアール・ヌーヴォー風少女の挿絵に繋がっていったというのである。
なお、大正期の少女趣味成立の事情については川村邦光「オトメの祈り」に詳しい。
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さて、大塚は日本のマンガを、キャラクターを中心にたどっていく。非常に記号的で、ゴム人形のように変形し、崖から落ちても死なないキャラクターが、いかにして切れば血を流し撃たれれば死ぬ肉体を獲得し、内面を獲得していったのか。大塚はそこに戦争の影響を見る。総力戦に向けた科学主義による思想統制がマンガから荒唐無稽な物語を消し、そこに戦時広報のためのニュース要素が入ってくる。化学合理主義による富国強兵というのは時代精神でもあり、すべてファシズム体制の産物に結びつけていくのは議論として乱暴な感もあるけれど、実作に基づいて思想統制の実例を細かく検証している部分は大変興味深い。国が設定したキャラで新聞各紙をはじめとする各種メディアで様々なマンガ家が一斉に競作したマンガ「翼賛一家」とか、初めて知ったし。海軍のPR映画として作られたのが有名な「海の神兵」で、ここでディズニーアニメの手法とドキュメンタリー映画の手法が結びつけられたことが、重要な転換点としてマンガ史の中で位置付けられている。
その試みを引き継いだ手塚治虫が、記号的なディズニーキャラクターを、肉体と心を持つ日本マンガのキャラクターに変えていったのだ。手塚のモブシーンについて、例えば夏目房之介「手塚治虫はどこにいる」と比べるのも面白い。
- 作者: 夏目房之介
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/12
- メディア: 文庫
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通史としてのマンガ史を記述する試みとして非常に刺激的であり、面白い。ある意味生きるマンガ史でもあるみなもと太郎の「マンガの歴史」と読み較べるのも興味深い。みなもと太郎のマンガ史は、手塚以降に重点が置かれているが、読者として体験した赤本や貸本など流通形態に関わる貴重な分析があり、戦後マンガの発展と拡散について総覧できる。
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大塚の本作に戻るが、とにかく貴重な図版が豊富に引用されていて、それだけでも価値がある。資料の出典は全て細かく示されているけれど、参考文献は特に挙げられていない。通史としてのマンガ史の記述ってほとんどないこともあるんだろうけれど。カテゴリ別ではあるけれど、「戦後少女マンガ史」とか「戦後SFマンガ史」とか米澤嘉博の労作があったと思うんだが、あれはどこに仕舞ったっけ。
https://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/profile.html