明治大正期に形成された近代日本の少女のイメージを検証する。事例の並列にとどまって、アルケオロ
ジーというほどのことはないけれど、当時ブームとなって刊行された少女雑誌や婦人雑誌の読者投稿欄からの引用が多数
採録されているのが面白い。ヨーロッパ
自然主義文学などの翻訳
小説と、王朝和歌から連綿と続く花鳥風月的な日本の伝統的センスが混交して、読者の投稿文からいわゆる少女趣味のポエムの文体が成立していくのがわかります。語彙や修辞、「懐かしさ」「淋しさ」などのイメージを孕んだ、いわば「オトメ体」とでも言うべき独特の文体が成立することで、読者投稿欄にオトメによるコミュニティが成立することになるのです。オトメ体の文章が「オトメ」としての
アイデンティティをもたらすというわけです。オトメとしての
アイデンティティは年齢を超越し、六十代となっても、十代の頃そのままのオトメ体で手紙を書いている女性の例が紹介されています。それは一過性の感傷に終わらず、オトメとしての家庭観、夫婦観を形作っていったのです。オトメ体という「文体とイメージによってこの世界の”経験”は保持され伝承されるのだ」と著者は書いています。