野尻抱介「太陽の簒奪者」

お勧め度:AA+

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

「沈黙のフライバイ」「ふわふわの泉」とつながるファーストコンタクトテーマ。ファーストコンタクトといってもいろいろなんだけど、異質な知性との間でコミュニケーションは可能か、とかそもそも異質な知性って具体的にどうゆうんだ、というポイントがあって、異質な知性が単なる異文化にすぎなかったり、はたまたソラリスとかみたく異質すぎて最後までわかんなかったりとか、まあ直接は表現できない。間接表現だと、山田正紀「神狩り」で言語構造がスゴイ!とかあったなあ。で、野尻抱介の場合、「沈黙」は文字どおり沈黙だったのに比べると(沈黙とかいうと遠藤周作思い出すな。考えるとけっこう似てるかもしらん)「ふわふわ」と「簒奪」はもうちょっと愛想がある。コンタクトの相手は人類とは異質な知性体で、人類とのコミニュケーションも本来成立しないんだけど、アクシデントで成立するという仕掛け。相手が語りだすと、その分畏怖の効果は薄まってしまうかわり、思考実験的に異質さをいろいろと構築できる楽しみがある。異質性の表現としては、「ふわふわ」も「簒奪」も主体と他者の区別がない意識という設定で、おお、人類補完計画かとか思った。また、「簒奪」では異質さの表現の小道具として、もひとつ、AIも使われてる。この辺りは「BRAIN VALLEY」を思い出す。あっちの人工知能も盛り上がったけど、散々仕掛けに凝った挙げ句のクライマックスで失速しちゃってたからなあ。「簒奪」の方には、見せ場としては人類初の宇宙戦闘シーンがあります。一応現有技術にはない新兵器も出るとはいえ、基本は誘導核ミサイルですから。ウルトラマンなしで怪獣と戦っていたウルトラQみたいだ。全体に地球近傍を舞台にして現在利用可能な技術をもとにしたリアリティが力強い骨格になってる。現在から地続きの感じがするんだよね。2004年に高校2年生だった主人公の物語は、2002年現在中学3年生の人たちにとっての可能性の一つなんだよなあとか思ったりもする。最新作としてSFマガジン誌上に発表された「複素数の呼び声」もファーストコンタクトものだけど、こっちはちょっと趣が違って、アイデアストーリーですね。いろんなアイデアというかガジェットが詰め込まれてて楽しいんだけれど、ファーストコンタクトの方は、異質な知性というよりはオチのある落し話です。ネタバレしちゃうとつまんないんで、読んでみてと言う感じだなあ。
野尻抱介「沈黙のフライバイ」 - ねこまくら
瀬名秀明「BRAIN VALLEY」 - ねこまくら