芝村裕吏「セルフ・クラフト・ワールド」

セルフ・クラフト・ワールド 3 (ハヤカワ文庫JA)

セルフ・クラフト・ワールド 3 (ハヤカワ文庫JA)

ファンタジー系オンラインRPGの世界に入り込むというネタは色々使われてるけれど、もうこれが決定版と言っていいんじゃないか。出てくる女性キャラ全員AIだけど、えらいカワイイし!芝村裕吏のいつものお惚気SFはAI設定使うとハマるなあと喜んでたら、風呂敷がどんどん広がって、数万年オーダーの壮大な叙事詩を浮かび上がらせつつ、3巻でキッチリ収束させました。異次元ラブコメもできるしサイバーパンクもできるし、ファーストコンタクトSFとか、何でも盛り込める「セルフ・クラフト」の世界設定が秀逸だし、その設定を活かしきるように様々な趣向を凝らした構成も見事。
工学的なシステムとしての世界に、輪郭のはっきりしたキャラクターを放り込むことで、世界と人間の有り様をコンパクトに描き出してみせた。人間に対する世界の理不尽さを、「神の沈黙」だとか「不条理」だとかにしな い、ニュートラルな視線を根底に持っているところが、「新しい小説」なのではないか。

「セルフ・クラフト」は、最初は何の変哲もない、ぱっとしないMNORPG(大規模多人数参加型オンラインRPG)でした。ところが起死回生の策としてプログラムによるゲーム内での自己生成を組み込んだところ、仮想生命体G-LIFEが発生、爆発的な進化を遂げてゲーム内に独自の生態系を作り上げたのでした。それはいわば強力な計算パワーを使ったAIの進化シミュレーション結果ともいうべきもので、G-LIFEの分析から得た知見は現実世界に常識を覆すような新発明を次々にもたらします。世界は一気に新たな産業革命期に突入するのですが、問題が一つ。G-LIFEの発生と進化が、同種のゲーム、「セルフ・クラフト」自体のクローンコピー上でも、再現できなかったのです。G-LIFE生態系を擁するサーバーが日本にあり、G-LIFE研究自体も日本が中心となっていたことから、G-LIFEに関わる権益も日本がほぼ独占する形となり、「セルフ・クラフト」は日本の国益の要となる一方で国際関係は緊張していきます。
そんな設定を背景として、現実世界と「セルフ・クラフト」内世界が交錯するSFシリーズが「セルフ・クラフト・ワールド」全3巻です。
同作者の小説である「まめたん」、「この空の守り」とクロスオーバーしてるので、そちらも合わせて読むことをオススメする。
セルフ・クラフト・ワールド 1 (ハヤカワ文庫JA)
セルフ・クラフト・ワールド 2 (ハヤカワ文庫JA)
この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

富士学校まめたん研究分室 (ハヤカワ文庫JA)

富士学校まめたん研究分室 (ハヤカワ文庫JA)

「まめたん」は芝村裕吏のいろんな小説に出てくるけど、これがそのオリジン。アラサーの地味なリケジョの愚痴と妄想が入り混じった語りでまめたん開発といきなりのデビュー戦が読める。芝村裕吏の、女の一人称小説は飛躍と断言のテンポがやたら可愛くって、クセになるなあ。
同作者の別シリーズ、「マージナル・オペレーション」ともいろいろクロスしてたりします。しかし最近は国際情勢もいろいろ流動的だし、日本人に馴染みのない地域が脚光浴びたりとかして、いかにも「分かりにくい」感がバリバリだから、こまめにフォローしてる作者の書くものは近未来設定の説得力が違うね。
herecy8.hatenablog.com

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)
似たような話でも、こっちはもっとハードSFしてます。
AIが主人公のSF、というよりAIしか出てこない。放棄されて千年経つ仮想空間のリゾートで、AIだけが永遠の夏を過ごしている。そこに突然、全てを無 化する「蜘蛛」が襲来する。硬質な文体ながら詩情を感じさせる文章で、全体を静かな残酷さが覆っている。シリーズもので、次の巻には人間も出てきます。
恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

こっちはAIが主人公のラブコメ。しっかりミステリでSFです。一途なAIが可愛い!
herecy8.hatenablog.com