マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 The Iron Lady

かつて「鉄の女」と呼ばれ、イギリスの首相を務めたことのある、一人の老女の物語。
意思の力を信じ、信念を貫いてイギリスを率いた彼女にとっての日々は毎日が戦争だった。そして、引退して老境を迎えた今もまた、一人孤独な戦いを続けている。それは自身の誇りと尊厳を賭けた戦いで、しかし誰からも理解されることはなく、そしてその戦いに勝利することはない。戦っている相手は、自らの老いである。
老女の傍らには常に亡き夫が寄り添っている。幻影と他愛のない会話を繰り返す彼女にとって、それは孤独を癒す妄想であり、政治的な栄光の代償となった家庭的な安らぎの補完であるのかもしれない。しかし、現実から目を背け、安逸に逃れる事はマーガレット・サッチャーの是とするところではない。彼女は夫の死と向き合うことを決意し、猛然と遺品の整理を行う。夫の幻影は去り、孤独な老人の現実が残る。
これは、衰退した英国を再生させた一人の政治家の栄光と挫折の記録、ではない。鉄の意思をもって生きた一人の女性の一代記である。