岩永亮太郎「Pumpkin Scissors」

永きにわたる戦乱で荒廃した帝国の復興を担う帝国陸軍情報第3課、通称パンプキンシザーズ。飢餓疫病、野盗化した兵隊、治安当局の手の及ばないスラムなど、戦争の爪痕が生々しく残る混乱と腐敗から社会を立て直す戦災復興というもう一つの戦争を戦う部隊の物語。その前に立ちはだかる障害は、金と暴力と権力の硬い殻となって既得権益を包んでいる。そんなカボチャの外皮のような硬い殻を切り裂く南瓜抜き鋏、それが戦災復興部隊パンプキンシザーズである。
実働部隊を率いる女隊長がアリス・L・マルヴィン少尉。皇室会議にも列席を許される拝命十三貴族の次期当主で勝気な熱血漢。生真面目で頑固だが、戦災復興の最前線で「罹災者」と共に泥まみれで戦いながら、どんな時でも貴族の誇りを忘れない理想主義者。
突然の停戦で行き場をなくしてうろついてたところをマルヴィン少尉に拾われたのが、ランデル・オーランド伍長。ちょっとトロくさい巨漢だが、腰につけたランタンを灯すと、人が変わり、痛みも恐怖心も忘れて一人で戦車に正面から挑み、保身なき零距離射撃で撃破する対戦車猟兵だった。
オーランドは、極秘の特殊部隊「不可視の9番」に属していた生体兵器だった、異様な兵器の実験台のような「不可視の9番」が絡む事件を扱っているうちに、物語は次第に開発研究を推進していたカウプラン機関の謎を浮かび上がらせていく。
戦争そのものではなく、戦後の戦災復興を扱うマンガ。異世界で技術チートする転生者ではなく、いわばチートされた後の異世界を舞台にしたマンガ。
憎悪が憎悪を呼ぶ負の連鎖の中で依るべき「正義」を問うマンガ。誰が、どんなテクノロジーを望み、追求発展させるのか、社会は新たなテクノロジーを如何に受容し、影響を受け、変化して行くのか。世界とテクノロジーの関わりを描くマンガ。重厚な物語は周到に構築されており、話の進展にしたがって世界が広がって行く、風呂敷の広げ方も伏線のはり方、回収の仕方、しっかり計算されている。ドロドロした生臭い描写に、コミカルなシーンを時折挟んだ緩急のつけ方も巧みで読みやすい。
肉弾戦で大男が戦車に取り付いて、銃口を装甲に密着させた零距離射撃で撃破するという破天荒なアクションが見所の一つだが、そもそも遠距離の攻撃手段があまり存在しない設定で、戦闘は近接戦闘が基本、描写はかなり生々しく、ホラーっぽい演出もある。