リン・トラス「図書館司書と不死の猫」

図書館司書と不死の猫

図書館司書と不死の猫

人語を話すネコと司書、というのでファンタジーかと思ったら、ホラーでした。表紙とかもホラーっぽくなかったし。たしかに帯には「不思議でブラックな物語」と一緒に「M.R.ジェイムズに影響を受けた」とも書いてあった。より正確にはホラーというより奇妙な味、というべきでしょうか。血腥い、悍ましい事件が起こったり、悪魔崇拝者の記した私家版のパンフレットとか、蠱惑的でホラーな道具立てが揃ってますが、軽妙でユーモラスな語り口と、奇妙な登場人物たちの造形によって、独特の味わいになってます。重要な鍵を握ってるんだけれども、話を聞こうとすると延々脇道に逸れてしまって肝心の話になかなかたどり着けない博士とか。なんかちょっとモンティパイソンっぽい感じでしょ。
あと、ホームズのセリフを引用したいが為にワトソンと名付けられた犬とか。「来い」って呼ぶときには、「都合がよければ、すぐにこい。悪くても、すぐにくるんだ。」って呼ぶの。ステキでしょ?
物語は、図書館司書を定年退職し、愛妻を亡くして失意のうちにあった主人公のもとに、奇妙なメールが送られてきたところから始まります。メールには、いくつかのファイルが添付されていました。そのファイルはウィギーという男の書いたメモなどで、彼の姉はウィギーに電話をよこした直後、失踪したというのです。そして、共に添付されていた音声ファイルでは、姉の飼い猫であったロジャーが、自らの過去を人語で語っていました。ロジャーはおよそ100年近く前、キャプテンと名乗る大きな黒猫と出会い、不死となったというのです。ネコは昔、現在のように弱く愚かになる前は、もっと賢く偉大な力をもっていて、その力を復活させたのです。
面白半分に調べ始めた主人公はやがて、そのキャプテンが妻の死と関わりがあるのではないかと疑い出します。
ゴシックホラーのパロディというより、パスティーシュかな。邪悪なネコを封じる呪物がアレだったりするけど。もともと愛猫家だった著者は、本作執筆後、イヌ派に転向したそうです。実は転向文学なのかもしれない。