小笠原慧「DZ」

DZ (角川文庫)

DZ (角川文庫)

バイオSFっぽいミステリ。
エピソードをもっと整理しましょう。なんだか陳腐なエピソードばかり、いっぱいつまっている。「孤独」をエピソードで語らないで、理屈で語ってるんだよね。これこれこうだから、この人は孤独な筈です、みたいな。そんなこと言われたって、そもそもお話しなんだし、「ああ、そう。そうかもね。それで?」でおわっちゃうじゃない。そのかわり些細なエピソードがやたらと細かく書込まれてたりして、登場人物それぞれに対する書き込みのウェイトに、ものすごい違和感がある。半分くらい読まないと誰が主人公かもわからないというのは、やりすぎではないか。読者をこわがらせたいんだか、泣かせたいんだか、なんかよくわかんない感じで、どうも印象が薄い。なんか、エピソードってものを「大作っぽく見せるために詰めこむもの」と思ってないか?
同じ章の中で、一続きのシーンを突然視点を変えて描写したり、律義に事件の時系列にそってエピソードを羅列してるかと思うと、なんの説明もなく一行開けただけで何年もとんでたり、なんかこう書きやすいとこだけいっぱい書いて、書きにくいとこは避けてるような感じがしました。そういえばパラサイト・イブもそうだったけど、実験器具が登場するとそのときばかり嬉々として延々と描写が続くのね。悪いクセだと思うな。
横溝正史賞受賞だけど、ミステリにしないで、素直にSFにしとけばよかったのに。一応、謎があって、最後に意外な真相もあるんだけど、陳腐なエピソードに埋もれちゃって謎が物語をひっぱってくカギになってないのね。なんか感情のつじつまもあってないみたいだし。どんなに変わり果てた姿でも、母と子は一目でわかりあえるみたいな母子モノパターンの遺伝子版じゃん。吉田秋生の「YASHA」の方が全然面白い。 あと、読んでて男性作者が頭で考えた女性心理みたいな感じがしてたんだけど、もしかしてこの作者って女性?