北野勇作「かめくん」

かめくん
お勧め度:AA

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくんはかめくんであって、かめくんでしかない。ほんものの亀に似せて作られたもので、ロボットとか人工生命とか、そんな類いなんだろうけれど、そうした単語は一切でてこない。かめくんはかめくんなのだ。推論し判断する疑似自我は知性と呼びうるのか、とそのかめくんの疑似自我は自問する。その答えは、「どちらでもよい」だ。だってかめくんはかめくんであって、かめくんでしかないのだから。オリジナルにコピー、バーチャルなリアル、記号にシュミラクルが幾重にも重なり合って互いに模倣しあう世界での、かめくんの日常生活が淡々と綴られている。文体にはゆっくりと着実な、一定のリズム感があって心地よい。カメの歩みのような、と言いたいところだけれど、なんだかじれったい小説だと思われても困るので、心臓の鼓動のような、と言おうか。村上春樹の文体を連想した。村上春樹的な比喩はでてこないけれど、日本人らしき名前をカタカナ表記するとことか、言葉のセンスが似ているような気がする。